ここ数年で注目度が増しているxR技術(VR/AR/MR)。コンピューターの計算能力と表示能力が日々向上し、かつ5Gなどのネットワーク環境も整備が進んでいるからこそ、一部のギークなエンジニアのみならず、ゲームやビジネスの現場など、一般層での活用も進んでいるといえます。
なかでも、社会実装用のハードウェアとして特に期待されているものが「スマートグラス」および「ARグラス」です。本記事では、このスマートグラスやARグラスを活用した「遠隔支援」の現状について解説していきます。
スマートグラスとARグラスの違い
そもそも、スマートグラスとARグラスは何が違うのか、ご存知でしょうか。
ARグラスが「拡張現実感(AR)のある画面や景色を見る」という目的のために開発されるデバイスである一方で、スマートグラスとは、メガネやサングラスといった用途を主軸におきつつ、グラスを通じた世界にデジタルコンテンツなどを重ねて楽しむことを目的に開発されるデバイスです。
一般的にはスマートグラス=ARグラスと捉えがちですが、上記のような微妙な定義の違いがあります。
スマートグラス の詳細については以下の記事もご覧ください。
スマートグラスができることは?単眼式と両眼式の違いや、代表的な製品についても解説
遠隔支援が求められる理由
現在、このスマートグラスやARグラスを活用した各種社会生活における遠隔支援ソリューションが、かつてないほどに強く求められています。以下、その理由を3つに分けてお伝えします。
移動時間やその労力の解消
ビジネスマンが電車を乗り継いで会社へ通勤するという文化は、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症拡大にともなうニューノーマル生活へのシフトにともなって、少しずつではありますが減っています。本来的にオフィスに人が集まって仕事をする必要があるのか。コロナ禍において、この議題について深く考えた企業も多かったのではないでしょうか。
移動時間やその労力を解消するためのソリューションの一つとしてZoomなどのビデオ通話システムがあるわけですが、そこでのコミュニケーションをよりリッチなものにするデバイスとして、スマートグラスやARグラスの活用も考えられています。
属人化の解消
主に製造業や建設業など、モノづくりの現場における技術や技能の属人化への対応も、遠隔支援が求められる要因の一つです。OJTなど、座学以外での訓練が大切な領域であるからこそ、従来のeラーニングシステムのような2D画面での学習では習得に時間がかかります。結果として業務の属人性排除がうまく進まないことにつながるので、実際の現場風景をベースにして指示・指導を仰げるスマートグラスやARグラスの活用が、ますます求められています。
なお、スマートグラスやARグラスの活用に限らず、技術・技能伝承におけるAR/VRの活用については、以下の記事もご覧ください。
新たなる「技術・技能伝承」手法として注目されるAR/VRソリューションについて解説
トラブル対応の円滑化
スマートグラスやARグラスの場合、顔に装着してかけることで映像の共有などが可能なため、トラブルが発生した際にハンズフリーで対応することができます。
たとえば工場で機器異常が発生した場合、電話などの音声だけだと状況を的確に伝えられないリスクがあります。また、スマートフォンやタブレットのカメラ経由で説明をする場合、デバイスを手で持ちながら対応をする必要があるので、何かと不便で操作ミスにもつながりかねません。
スマートグラスやARグラスを活用することで、ハンズフリーによる対応が可能となるでしょう。
以上の要因をご覧いただくとお分かりの通り、スマートグラスやARグラスが社会生活における遠隔支援シーンで求められる理由として、以下の2点の技術的特性があげられます。
- ハンズフリー操作
- 視線共有によるリアルタイムコミュニケーション
遠隔支援の具体例
ここからは、実際にさまざまな業界でスマートグラスやARグラスが使われうるケースについてご紹介していきます。
複数人作業の省力化と効率化
インフラやプラント関連の作業では、ダブルチェックのために二人体制での作業になるケースが多いものです。先述した通り、2020年以降の社会では密な環境での就業ははばかれる傾向にあり、また労働人口の減少トレンドも相まって、少人数による現場対応が求められています。
現場作業員がスマートグラス/ARグラスを装着することで、現場ではマニュアルを参照しながら、もう片方のメンバーも遠隔で作業状況をチェックし、必要なタイミングで都度支援するという運用が可能となります。
施工管理・現場監督の効率化
建設現場では、施工管理職や現場監督が現場スタッフを管理しています。特に施工管理職は複数現場を並行してみることも多く、移動コストが膨れあがるうえに、離れた現場で何かトラブルが発生した際のコミュニケーションコストも高まる傾向にあります。
現場スタッフがスマートグラス/ARグラスを装着することで、施工管理職は現場の様子を1箇所にいながら集約して把握でき、また必要に応じてピンポイントのメンバーに指示などを出すこともできるようになるでしょう。
検査・点検の効率化
私たちが日々生活するマンションやオフィスビルなどの外壁は、劣化等による剥落リスクがあることから、定期的にメンテナンスすることが必要です。2008年の建築基準法施行規則の一部改正では、歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の外壁について、10年ごとに全面打診調査をすることが義務付けられています。
これについてもスマートグラス/ARグラスを活用することで、たとえば1人が打診検査を行い、もう1人が図面を持って、外壁の浮きやクラックの記録と写真撮影を行うなどの対応をすることができます。以下、長谷工コーポレーションとアウトソーシングテクノロジーによる共同ソリューション「AR匠RESIDENCE(エーアールタクミレジデンス)」の事例もご参照ください。
https://www.ostechnology.co.jp/information/press/2020/0706_1
医療手術の遠隔指示
医師が手術を執刀する際においても、スマートグラス/ARグラスは有効です。
たとえば手術担当医師が装着したグラス越しに、患者の心拍数や血圧情報といった各種生理指標を画面表示することができるので、執刀者の現状認識力が上がり、より効率的に手術を進めることができるでしょう。もちろん先述のケースと同様、画面をリアルタイムに外部卯共有できるので、より経験豊富な医師の指示を仰ぎながら手術を進めることもできます。
また上述のようなリアルタイムでの手術のみならず、たとえば事前のメンバー間シミュレーションにおいても、スマートグラス/ARグラス装着者同士で臓器の位置をともなった患者の患部情報などについて3Dでチェックできるので、状況認識をより向上させることもできるでしょう。
参考として、医療におけるAR技術の活用については以下の記事もご参照ください。
医療分野で活用できるAR/VR/MRソリューションとは?外科手術支援から心療内科まで活用事例8選を解説
自動車等の査定業務の支援
自動車の査定では、車両の年式や走行距離、事故歴、改造歴などといった情報の他に、車のエンジンなどの機能的部分に関する評価や、外装や内装などの見た目に関する評価を行う必要があります。さまざまな車種に対する評価を下すには、相応の経験とチェックへの勘所が必要となります。
スマートグラス/ARグラスを活用することで、新人スタッフであっても、経験年数が多くて詳しいスタッフが遠隔で支援をすることで、適切な査定を進めることができるようになるでしょう。
スマートグラスやARグラスで遠隔支援をする際の注意点
このように、さまざまな業種業態で有効だといえるスマートグラス/ARグラスですが、活用にあたっての注意点もあります。
まず、両眼式ディスプレイの場合は、作業中に視界が遮られることがないようにソリューション設計する必要があります。たとえば通信が切れることで視界が一時的にでもブラックアウトしてしまうと、精密作業をしていた場合は大きなミスにつながりますし、危険な作業をしていた場合は命の危険につながることにもなります。
また、スマートグラス/ARグラスでの遠隔支援を受ける場合、ずっとかけておくことが前提になるので、デバイスそのものが重すぎないようにする必要もあります。いくら多機能であっても、かけているだけで疲れるほどの重量がある場合、持続的に作業を進めることは困難だといえるでしょう。
さまざまな業務で活用できるスマートグラス/ARグラス
以上、スマートグラスやARグラスでの遠隔支援ケースについて紹介していきました。ハンズフリーであり、また視線共有によるリアルタイムコミュニケーションが可能だからこそ、さまざまな業務で活用できることがお分かりいただけたと思います。
5Gなどのネットワーク環境整備が進み、社会実装の事例も増えてきたからこそ、貴社業務でもスマートグラスやARグラスの活用を検討してみてはいかがでしょう?