ものづくりの世界では、試作モデルの作成やテストを繰り返して品質を確保したり、企画要件を満たすような製品設計を実施します。
こうした設計工程で、従来手作業で行っていた試作モデルの作成をテクノロジーの力で迅速化する「ラピッドプロトタイピング」という開発技法があります。
今回は、ラピッドプロトタイピングの基礎知識やメリット、ラピッドプロトタイピングで製品開発を成功させるポイントなどを解説していきます。
ラピッドプロトタイピングとは?
ラピッドプロトタイピングとは、3Dテクノロジーを活用して迅速(rapid)に製品の試作モデルを作成する(prototyping)開発技法です。
ラピッドプロトタイピングは、大まかに以下の手順で行います。
- 製品のデジタルイメージとなる3Dデータを用意
- 3Dデータを輪切りに分割し、「スライスデータ」を生成
- スライスデータを「RP機」と呼ばれる造形装置に入力
- 造形装置がスライスデータをもとにした物理モデルを現実世界に積み上げ
RP機は、もともと光造形機や粉末焼結機などの業務用大型機械が主流でしたが、近年登場した3Dプリンターの存在によってラピッドプロトタイピングの知名度が急上昇しました。
参考:「製造業を進化させるラピッドプロトタイピング」独立行政法人工業所有権情報・研修館
上記の手順は、「積層造形法」と呼ばれる製造手法が用いられ、主に以下のような手法に分類されます。
光造形法
光造形法は、「光硬化樹脂」と紫外線レーザーを使う手法です。
光硬化樹脂とは紫外線によって硬化する特殊な素材で、樹脂を積み上げて照射する動作の繰り返しによって造形を行います。
光照射後はすぐに樹脂が硬化するため造形スピードが速く、複雑な造形もなめらかに再現可能な点が強みです。
熱溶解積層法
熱溶解積層法(FDM)は、熱で溶かした樹脂を噴出し、積層していく手法です。
積層後の冷却に時間を要したり、寸法精度が低いのが難点ですが、装置が安価なため導入ハードルは低くなります。
粉末法
粉末法には、主にナイロンの粉末を熱レーザーで焼結させる方式と、石膏の粉末を硬化させて積層する方式の2種類があります。
ナイロンは強度に優れ、実機への組み付け試験にも耐えられる試作モデルの作成を可能にします。一方石膏は低コスト・短時間での造形に優れ、出力時の着色が可能です。
ラピッドプロトタイピングのメリット
製品開発にラピッドプロトタイピングを用いるメリットを3つ解説します。
製品の市場投入までの期間を大幅に短縮
ラピッドプロトタイピングで企画・設計・試作・フィードバックのサイクルを高速化すれば、製品の市場投入までのリードタイムを大幅に短縮できます。
近年の製品開発では、市場ニーズの流動化や製品ライフサイクルの短期化が顕著になっているため、市場競争力を高められるのは大きなメリットです。
エンジニアリングの労力とコストを合理化
試作を手作業で行う場合、熟練の技術者がクレイモデル(粘土)やモックアップ(木材)を長時間かけて作成する必要があります。
対してラピッドプロトタイピングは機械的に試作を作成できるため、エンジニアリングの労力とコストを大幅に削減可能です。
要件と実製品のイメージに差が生まれにくい
要件定義および要求定義で定められたコンセプトに忠実な製品化をするためには、設計精度を高めるのが重要です。
ラピッドプロトタイピングを実施すれば、試作と検証のサイクルを高速化でき、微調整の繰り返しによって設計精度を向上できます。また、コンピュータ上のシミュレーションとは異なり、物理試作を用いた詳細な検証が可能です。
結果として、企画段階の製品イメージと実際に作られた製品との差が生じにくくなります。
ラピッドプロトタイピングによる製品開発を成功させるには
ラピッドプロトタイピングで製品開発を成功させるポイントを2点ご紹介します。
CAD/CAEとの連携
試作の元となる3Dデータは、3DCGツールやCAD(コンピュータによる設計)ソフトウェアを用いて作成します。
データ作成後はRP機で造形する前に、CAE(コンピュータによるシミュレーション)ソフトで形状や材質の検証を行うと効果的です。
CADとCAEを連携させることで、設計工程での問題点抽出を早期の段階で実現できます。
参考:「ラピッドプロトタイピング技術の現状と可能性」日本接着学会誌 Vol.50
関連記事:CAD/CAM(キャドカム)で工作機械を制御する
3Dスキャナの活用
3Dデータを作成するためには、CADなどを用いたデジタルベースによる方法以外に、3Dスキャナで実物をスキャンするアプローチがあります。
ラピッドプロトタイピングで3Dスキャナを活用する場合、以下のような場面が想定されます。
- ある装置の部品を開発するとき、本体をスキャンして正確な寸法を測る
- 既存品のスキャンデータから改良点を探る
- スキャンデータとCADで作成したデータを合成する
スキャン直後は点で構成される「点群データ」として出力されます。その後は用途に応じて、簡易的に面を貼った「メッシュデータ」や、詳細な数式を保有するCADデータに変換する必要があります。
ラピッドプロトタイピングの事例
ラピッドプロトタイピングを採用した企業の開発事例を2つ見てみましょう。
簡易的な形状確認を省コスト化
自動車関連製品を主に生産する「西川ゴム工業株式会社」は、自動車メーカーからの強いコストダウン要求を受け、ラピッドプロトタイピングを導入しました。
その後同社では、自動車メーカーに企画段階の形状確認を要望された場合のみ、シリコンと樹脂で自動生成された試作を提示し、省コストを図っています。
この事例では、従来よりCAD/CAMを活用した開発がベースとなっていたため、ラピッドプロトタイピングの導入がスムーズに進んだとのことです。
参考:「ラピッド・プロトタイピング・システムの利用 | 人とシステム」NTTデータ エンジニアリングシステムズ
開発から製造をすべて3Dプリンターで実現
スポーツブランドの米大手「NIKE(ナイキ)」は、シューズのアッパー部分を3Dプリンターによって製造する「フライプリント」製法を開発しました。
同製法では、繊維一本一本の配置をデジタル空間内で容易に変更でき、3Dプリンターによって迅速な現物化を実現します。
試作とテストのサイクルを高速化するだけでなく、完成品も3Dプリンティングで完了するため、製品化までのリードタイムを飛躍的に短縮させる画期的な開発事例です。
参考:「ナイキ独自の3Dプリントを採用したナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントを国内で初めて販売」Nike, Inc.
ラピッドプロトタイピングで製品開発のリードタイム短縮を
今後の製造業では、市場ニーズの多様化・流動化によって、多品種少量生産に対応可能な開発体制が求められるようになります。各企業はこれまで以上に製品開発サイクルを合理化していかなければなりません。
ただし、時代が変わると共にテクノロジーも進化していきます。ラピッドプロトタイピングに役立つ3DプリンターやCADは従来よりも広く普及しました。設計工程にフォーカスして高速化を可能にするラピッドプロトタイピングは、今から取り入れても効果的です。他にも、製造工程を高速化できる産業用ロボットなどの自動化技術を活用するのも有効です。
次なる時代に備え、製品開発のリードタイム短縮を目指して市場競争力を高めていきましょう。