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指差呼称の効果を高めるポイント-意味がないと感じられるのはなぜ?

指差呼称の効果を高めるポイント-意味がないと感じられるのはなぜ?

作業もれや危険防止のために指差呼称(指差し確認)を徹底している企業は少なくありませんが、作業者にとっては意味がないと感じられる場合もあります。そこで本記事では指差呼称の効果を高めるため、正しい実施方法と効果を高めるポイントについて解説します。

職場環境における安全性の確保は、従業員や現場責任者にとっても重要な要素です。特に、製造業や建築業においては危険な作業を伴う業務も多いため、入念な安全確認や徹底した組織体制が求められます。もちろん危険に直結しない場合であっても、ヒューマンエラーは不良品の発生や設備トラブルにつながるため、限りなくゼロに近づけたいものです。

しかしながら、指差呼称は実施する人にとって「本当に意味があるのか?」と感じられる場合もあります。そこで本記事では、危機回避やヒューマンエラー対策に効果的な「指差呼称」を実施する際のポイントや、効果的な実施方法について解説します。

関連記事:ヒューマンエラー対策の方法-分類と要因に応じた具体例とポイント

指差呼称(指差し確認)とは?

指差呼称とは、確認の対象とするものを指差し、その名称や状態を声に出して確認する一連の動作のことです。主に、製造分野においては危険予知やヒューマンエラーを回避するために行われます。

指差呼称の実施手順は、以下の通りです。

  1. 対象物を見つめてはっきりと認識する
  2. 右腕を真っ直ぐ伸ばして対象を人差し指で示す
  3. 対象物の名称をはっきりと声にだす
  4. 対象の状態をチェックしながら右手を耳元まで戻す
  5. 確認できたら「よし!」と発声する
  6. 右手を振り下ろす

参考:職場のあんぜんサイト:指差呼称[安全衛生キーワード]

これらの手順において重要なのは、実施者が対象物をはっきりと認識して動作することです。指差呼称の手順に慣れて一連の動作が無意識的に行われると、危険予知やヒューマンエラーの防止効果が弱まってしまいます。

もともと指差呼称は、鉄道業における信号確認の安全動作でした。しかし、危機回避の効果が高いことからその他の業種でも活用されるようになり、現在では製造・建築・運輸などさまざまなモノづくりの現場で用いられています。

指差呼称の目的や効果

指差呼称の大きな目的は、無意識や不注意が発生しやすい確認作業における注意力や集中力を高めることです。たとえば、製造機器のバルブの開閉や火気を使用する際の周囲の安全確認など、危険性が高い、または安全確認の重要度が高い作業が例としてあげられます。このような作業は、無意識的に行うとケガや事故を引き起こすかもしれません。

そのため、指差呼称を実施する基準は「作業に危険が伴う、または作業内容の重要度が高いか」で判断するとよいでしょう。逆に詳しくは後述しますが、確認を徹底したいからといってあらゆる確認動作に指差呼称を義務付けてしまうと、かえって注意力を低下させる恐れもあります。

人間の意識を評価する「フェーズ理論」について

フェーズ理論とは、人間の意識レベルを0〜4の5段階に分けて評価する概念です。意識レベルが低いほど無意識に近く、高いほど緊張状態にあります。なお、作業を実施する場合の意識レベルとしては、レベル3が最も高いパフォーマンスを発揮するとされています。

フェーズ理論の各意識レベルの詳細は、以下の通りです。

意識レベル0無意識で脳が働いていない状態。睡眠中、気絶など。
意識レベル1意識はあるがもうろうとしている状態。疲労時、居眠り運転など。
意識レベル2リラックスしている状態。休憩中、安静時など。
意識レベル3適度な緊張感があり、脳が積極的に働いている状態。業務中、集中時など。
意識レベル4感情が高ぶっており、過度な緊張にさらされている状態。怒っている、急いでいるなど。

実際の業務において、レベル0や1の状態があってはならないのは当然ですが、業務を遂行できるもののミスを誘発するという意味では、意識レベル2または4の状態も危険度が高いと言えます。安全を確保しながら作業するには意識レベル3の状態を維持するのが理想ですが、人の集中力は長くは続かないものです。指差呼称は発声を伴う動作により、一時的に意識レベルを3に引き上げる効果があります。

指差呼称の手順例

指差呼称の手順は作業内容や業種によって詳細が異なりますが、基本的な方法は冒頭で説明した通りです。しかし、危機回避やヒューマンエラーを防止するには、ただ手順をなぞらえた形だけの実施だと意味がありません。

各動作手順と、それぞれの段階におけるポイントについて、改めて以下に解説していきます。

手順ポイント
1.対象物を見つめてはっきりと認識する対象物の状態を確認しやすいよう、チェックする部位や自身の立ち位置をあらかじめマニュアル化しておく
2.右腕を真っ直ぐ伸ばして対象を人差し指で示す大きな動作でキビキビと行う。左手は腰にあて、背筋をピンと伸ばす。
3.対象物の名称をはっきりと声にだす恥ずかしがらない。対象から目線をそらさない。
4.対象の状態をチェックしながら右手を耳元まで戻す本当に正しいか、合っているかを反すうしながら確認する
5.確認できたら「よし!」と発声する大きな声をだす
6.右手を振り下ろす最後まで対象から目線を外さない

このように発声と指さし以外にも、全ての動作に注意を払い、正しく実施することにより、意識レベルを引き上げることが指差呼称の本質です。そのためまずは、目線は常に対象物へ向け続け、動作と発声は大きく行うことから始めるのが良いでしょう。

指差呼称には意味がないと感じられる理由

実際の現場では「指差呼称は面倒」「やっても意味がない」といったネガティブな意見も多く見られます。指差呼称を指示しているにもかかわらず徹底されない、ミスが残ってしまう原因として、主に以下の3点があげられます。

  • 作業者に定着せず、習慣化されにくい
  • 指差呼称の意味や重要性が理解されていない
  • 指差呼称が形骸化してしまい、ミスが残る

ここからは、これらの理由についてそれぞれ解説していきます。

作業者に定着せず、習慣化されにくい

作業者の中には「作業を速く終わらせたい」「いつも問題ないから今回も大丈夫だろう」といった考えから、指差呼称を行うことが面倒だと感じ、省略してしまうことがあります。

また、指差呼称は動作や発声を伴うため、恥ずかしさから正しい動作が徹底されないのも原因の1つです。そのため、従業員や現場の管理や雰囲気作りが不十分だと、指差呼称はなかなか習慣化されません。

指差呼称の意味や重要性が理解されていない

指差呼称がなぜ有効なのか、どのような効果があるのかが従業員に周知されていないと、「目で見たらわかる」「指差しや発声は必要ない」と考えられ、実施に至らない可能性があります。

指差呼称は大きな動作の指さしと発声によって意識や注意力を高める効果がありますが、目で見るだけの確認ではそれらの効果は得られないでしょう。

指差呼称が形骸化してしまい、ミスが残る

指差呼称の動作自体は非常にシンプルです。そのため、形式だけの実施に留まるケースも多く、危機回避やヒューマンエラーの防止につながらないことがあります。

このように指差呼称が形骸化してしまうと、本来の目的である「意識レベルの引き上げ」につながらず、むしろ指差呼称自体が無意識的に行われてしまう可能性があります。これはフェーズ理論における意識レベル2ないし1に相当するため、結果としてミスを見逃すリスクを高めるのです。

指差呼称を徹底するポイント

前章の理由を踏まえて、指差呼称を組織に浸透させ、作業者が徹底できる状態を作るためのポイントを見ていきましょう。

指差呼称の有効性を正しく説明する

「指差呼称がなぜ重要なのか、どのような理由により効果を発揮するのか、実施しなければどうなるのか」といった説明の場を設けましょう。たとえば、指差呼称による好事例や指差呼称を実施しなかったことによる事故事例など、実際に起きたことを説明するとより説得力があります。

指差呼称はシンプルな動作だからこそ、手順とポイントを説明するだけでは、実施の重要性になかなか目が向きません。指差呼称の重要性を理解してもらうことが、重大なミスや事故を防止する第一歩です。

指差呼称への取り組みを評価する

実施においては、指差呼称を徹底しているか、正しく実施できているかを評価する仕組みを構築しましょう。たとえば、業務成果などと別軸で指差呼称をはじめとした安全活動に対して表彰を行う、給与や人事評価へ反映するといった取り組みがあげられます。

実施に対しなんらかのメリットやインセンティブを与えることも、危険回避という重要な目的を達成できるのであれば、有効な手段となり得るでしょう。ただし、このようにして行動を習慣化させる場合は形式だけの実施とならないよう、同時に「なぜ行うのか」の部分を意識してもらう取り組みも欠かせません。

全社的な安全意識を高める

全社的な安全意識が低ければ、指差呼称が徹底されないうえ、指差呼称を実施している従業員をバカにしてしまうなど「恥ずかしさ」を強く感じさせてしまいます。

そのため、前述した2点の取り組みは部署やチーム単位で行うのではなく、全社的に実施するのが望ましいでしょう。職場全体の安全意識が高まることで「指差呼称は当たり前」の文化を根付かせられます。

指差呼称の効果をさらに高めるには?

指差呼称は正しい手順とポイントを押さえることで危機回避やヒューマンエラーの防止効果が期待できます。しかし、指差呼称は基本的に人の手で行うため、実施者の危機管理能力や体調に効果が左右される点は否定できません。

また、重要なタスクや危険の多い作業など、より高い効果を必要とする現場では指差呼称だけだと不十分な場合もあります。ここからは、指差呼称の効果をさらに高めるポイントや応用について解説します。

指差呼称時の姿勢や動作を見直す

厚生労働省のサイトでは、指差呼称は、左手を腰に当て、背筋をピンと伸ばし、キビキビとした動作で行うことが奨励されています。これは、一連の動作をルール化することで指差呼称時に注意力を高めるのが狙いです。さらに効果を高めるために、実施の立ち位置を決めておく、対象周囲の安全確認も同時に行うなど、自社独自の動作や工夫を取り入れるのもよいでしょう。

ダブルチェックと組み合わせる

単独の指差呼称だと不安が残るなら、2人以上で安全確認を実施するダブルチェックやトリプルチェックを取り入れるのも効果的です。指差呼称は、対象を正しく確認したとしても、チェック者の勘違いや知識不足からミスを見逃すリスクがあります。

2人以上で指差呼称を行えば多くのフィルターを通せる分、リスクを軽減できるでしょう。ただし、ダブルチェックやトリプルチェックの実施は人的リソースを必要とし、集団心理による責任感の分散を招く恐れがあります。

複数人でのチェックを取り入れる場合は、チェック項目のルール化や従業員間の密なコミュニケーションなど、なんらかの対策を講じましょう。

関連記事:ダブルチェック・トリプルチェックの方法と見落としを減らす対策

AIやARなどによる「機械的なチェック」を組み合わせる

高度かつ精度の高い安全確認を行うなら、AIやARによる機械的な判断を指差呼称に組み込みましょう。機械的なチェックは、人の目でわからない情報をキャッチできるうえ、アルゴリズムを通じた高精度の判断が可能です。

実際にARグラスを通じて、人間が目視したものの状態を瞬時に判別し表示する、細かいメーターの読み取りや数量のカウントを行うといったシステムの登場しており、これらは目視と機械的なチェックを組み合わせた高精度な確認方法として、「クロスチェック」とも呼ばれています。

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指差呼称のタイミングでこれら2つの視点を組み合わせることで、ミス防止の効果をさらに高められるでしょう。

指差呼称は意識的な実施が重要

指差呼称は、対象の指さしと発声によって、危機回避やヒューマンエラーを防止する手法です。実施にあたっては確認動作が形骸化する恐れがあるため、大きな動作と発声で意識を活性化させること、そしてそのような意識を組織に浸透させることが重要とされます。

指差呼称が必要なシーンはほとんどの場合、重要なタスクや危険な作業です。安全確認作業の形骸化や意識レベルの低さは、重大なミスや命の危機につながります。従業員の安全を確保し、日々の業務をトラブルなく終えるためにも、指差呼称の重要性について今一度考えてみてはいかがでしょうか。

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