2021年8月10日、グーグル社が開発するスマートグラス「Google Glass(グーグルグラス)」の最新型「glass Enterprise Edition2」が日本の法人市場に向けて発売されました。
一般消費者より事業者の方が手にするまでが早かったグーグルグラスですが、ビジネス領域ではどういった活用が期待されているのでしょうか。
当記事ではグーグルグラスの基本的な知識や日本で発売した最新型のスペックを踏まえ、これまでに一般市場に普及しづらかった理由を分析しながら、本格的に始まるビジネスでの活用方法を解説します。
google glass(グーグルグラス)とは
google glass (グーグルグラス)とは、グーグル社が提供するスマートグラス(メガネ型ウェアラブルデバイス)です。
外見上は一般的なメガネやサングラスと大きく変わりませんが、片側のフレーム部分に単眼ディスプレイや小型カメラ、テンプル部分に操作用タッチパッドが装備されます。
グーグルグラス単体でインターネット接続や画像・映像撮影、AR(拡張現実)といった機能が使用でき、利用者の視界とデバイスの画面が一体化しているのが特徴です。
開発はグーグルの系列企業であるX(エックス)社が担当し、2012年の試作機発表時は「スマートフォンに次ぐ次世代デバイス」とされ、世界中で注目を浴びました。
2013年には個人消費者向けに北米市場でリリースされますが、2015年には販売が一時中止となり、現在は日本市場を含め法人限定で手に入れることができます。
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最新型「glass Enterprise Edition2」の特徴は?
2021年8月10日、グーグルグラスの法人用モデルの最新型「glass Enterprise Edition2」が日本市場に向けて発売されました*。
*アメリカでは2019年から販売されています。
日本市場では株式会社NTTドコモが販売を行い、企業ごとに異なる用途・台数にあわせて提案されています。
OSはスマートフォン同様にAndroid(バージョン8.1)を採用し、APIを用いて既存のサービスと連携が容易なのが特徴です。CPUはAR機能に特化したクアルコム製「snapdragon XR1」が搭載されます。
無線LAN規格は802.11ac、Bluetoothは400m以上離れていても電波が到達するといった特徴をもつバージョン5.0をサポートしています。
本体の重さは46gで普通のメガネよりわずかに重い程度のため、快適にデータやツールへとハンズフリーなアクセスが可能です。
先代モデルからどう変わった?
「Glass Enterprise Edition」は2017年に先代モデルが発売しており、今回の新型ではどの点に変更点があったのかをご紹介します。
搭載されるCPUは先代同様の「Snapdragon」シリーズですが、メモリが2GBから3GBへ、ストレージは16GBから32GBへアップし、パフォーマンスが向上しています。
ディスプレイの解像度(640×360ピクセル)に変更はない一方で、撮影用のカメラについては500万画素から800万画素へ増加し、デジタルー眼に匹敵する高解像度となりました。
バッテリー容量は780mAhから820mAhへ増量され、充電ポートはType-Cになったため急速充電に対応可能です。1度の充電で約8時間使用できるため、使用中の充電切れを心配する場面は少ないでしょう。
詳細なスペックについては、以下の表をご覧ください。
ネットワーク | Bluetooth 5.0,Wi-Fi 802.11ac |
接続(電源) | USB Type-C |
CPU | Snapdragon XR1(先代はSnapdragon 710) |
メモリ | 3GB(先代は2GB) |
ストレージ | 32GB(先代は16GB) |
OS | Android 8 Oreo |
バッテリー | 820mAh(先代は780mAh 1度の充電で約8時間の利用が可能) |
解像度 | 640×360 |
カメラ | 800万画素(先代は500万画素) |
重量 | 46g |
新型google glassはビジネスをどう進化させるのか
新型の法人向けグーグルグラスは、主に製造・物流や設備・点検・保守などのフィールドサービスといった、さまざまな業種の労働者が作業に必要な情報にアクセスする目的での活用が想定されます。
カメラ機能と視界に直接情報を映し出す機能は下記のように役立つでしょう。
- 熟練者が視線を共有しながら遠隔から作業指示を出せる
- ピッキング作業などでバーコードをスキャンし、対応する情報を作業者の視界に表示できる
- 作業者の視界にマニュアルやチェックリストを表示できる
こうしたハンズフリーによる作業者支援のほかにも、顔認証情報を利用したIDシステムや警備支援などに応用できます。
つまり、グーグルグラスは現場作業を重視するビジネス領域において、物理的な制約を受けない働き方を可能にするのです。
これにより、現場の省人化による従業員の負担軽減、人件費の削減、人手不足の解消につながります。
従来はリモートワークの導入が難しいとされる領域でしたが、今後はこうした常識が少しずつ変わっていくでしょう。
消防隊員による人命救助にも
グーグルグラスはビジネス以外の領域での活用可能性も認められているため、その一例をみてみましょう。
アメリカのノースカロライナ州ロッキー・マウント市では、消防隊員による人命救助にグーグルグラスおよび専用のアプリを導入する方針を示しています。
しくみとしては、まず火災が発生すると消防隊員が装着しているグーグルグラスにアラートが配信され、火災現場の住所と地図などの情報がカード形式で表示されます。
消防隊員はこの情報で現場の位置を確認しながら消防車を出動させ、到着後は近くの消火栓の場所をディスプレイに表示させたり、建造物の危険個所を表示したりする機能が検討されているとのことです。
グーグルグラスの機能はAndroid OSアプリの数だけ拡張性があるため、アイデア次第で効率化・高度化できる作業の幅はかなり広いといえるでしょう。
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google glassはなぜー般消費者向けに販売されない?
現在グーグルグラスは法人向けの業務用としてのみ販売されますが、一般消費者向けへの販売がされていないことには理由があります。
過去にアメリカの一般市場へ販売された際、日常生活で常に身に着けるうえでは避けられないリスクが主に2点指摘されました。
ひとつめは、カメラが搭載されることによるプライバシー侵害のリスクです。
グーグルグラスで撮影する場合、カメラやスマートフォンを構える必要がなく、周囲の人は知らぬ間に写真や動画を撮影される可能性があります。
ふたつめは、視界に情報が表示されることによる事故のリスクです。
アメリカのセントラルフロリダ大学の研究によると、運転中にグーグルグラスを装着してテキストメッセージを送信するのは、スマートフォンを操作しながら運転するのと同じくらい危険だという調査結果が出ています。
こうしたリスクは議論の的になり、州によっては使用を規制する改正法案が提出されるほどの事態となります。こうした世相を受け、一般販売は2015年に終了しました。
一方で一般消費者向けの販売については、グーグルグラス含めスマートグラス全般の普及に課題が山積であり、今後どのように社会へ受け入れられていくのかにも注目です。
Google glassはビジネス領域で関連市場拡大の見通し
これに対して法人向けのソリューションとしてのグーグルグラスは、場所や用途を限定するため上記のようなリスクは低く、活用方法に関して高いポテンシャルを秘めています。
パフォーマンスや利便性が向上した最新型が日本でも手に入るようになったため、今後ソリューションとして導入する国内企業は増加する可能性があります。
特定の法人向けのアプリや汎用性の高いキラーアプリなど、グーグルグラス上で動作するアラリの市場も活性化するでしょう。