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【新QC7つ道具】マトリックスデータ解析法の手順と特徴を解説!

【新QC7つ道具】マトリックスデータ解析法の手順と特徴を解説!

マトリックスデータ解析法は新QC7つ道具の中でも、特に膨大なデータの整理や分析に優れた手法であり、その分統計的な知識が求められる側面もあります。本記事ではマトリックスデータ解析法の考え方や手順、特徴について解説します。

製造業において、品質管理はあらゆる企業が取り組むべき課題として認識されています。そのための手法やフレームワークも数多く知られていますが、そのうちの1つ「マトリックスデータ解析法」をご存じでしょうか。

マトリックスデータ解析法は正しい理解のもとに実施することで、より高度な品質管理を実現できる分析手法です。実際の現場においてはツールやシステム等にて実施されるケースが多いため、本記事ではマトリックスデータ解析法の根底にある考え方や、その特徴に焦点を当てて紹介します。

マトリックスデータ解析法とは

マトリックスデータ解析法とは、マトリックス形式(複数の行と列から構成される表形式)で集計されたデータの関連性を分析し、問題の整理や解決の糸口を見つけ出す手法です。

表形式で集計されたデータは一覧性に優れていますが、それぞれのデータにどのような傾向があるのか、データとデータの間にどのような関係性があるのかといった分析が難しい状態でもあります。これらのデータを処理し、価値のある情報を取り出すことがマトリックスデータ解析法の目的です。

新QC7つ道具のひとつ

マトリックスデータ解析法は、品質管理の分野で広く用いられる7つのフレームワーク「新QC7つ道具」の1つに数えられています。

「新QC7つ道具」は、言語データの整理と分析によって品質改善への着想を得ることを目的とした手法です。従来は定量的なデータを分析する手法「QC7つ道具」が重視されていましたが、品質管理の課題解決においては多くの従業員が持つ「定量化されていないデータ」も分析することが重要だと考えられ、「新」と称したこれらのフレームワークが生まれました。

しかしながらマトリックスデータ解析法は新QC7つ道具の中では唯一、定量的なデータを分析する手法です。定量的なデータのなかでも変数が多く、従来のQC7つ道具では処理が難しいものに対して用いられています。

関連記事:新QC7つ道具とは?従来の7つ道具との違いや各道具を解説

マトリックスデータ解析法の役割

マトリックスデータ解析法により、データにどのような処理を行うのかの「役割」についてもう少し具体的に説明しましょう。マトリックスデータ解析法の最大の役割は、データの次元(変数の数)を減らしデータの分析や解釈を助ける点にあります。

あるデータを可視化し、分析しようと思った場合には、グラフや散布図を用いてデータを可視化することが多いのではないでしょうか。しかし、このような手法は立体で表現できる3次元以下のデータにしか使用することができません。したがって、4つ以上の変数を含む4次元以上のデータについては、何らかの方法で3次元以下のデータへと変換する必要があります。

マトリックスデータ解析法が主に用いられるのはこのような場合で、多量の変数からなるマトリックスデータに統計的な処理を加えることにより、3次元以下のデータへと変換することを目指します。この処理は統計学において「多変量解析」の手法の一つである「主成分分析」と呼ばれていますが、製造業の現場においてはもっぱらマトリックス形式のデータを処理することから、マトリックスデータ解析法という呼称が用いられています。

マトリックスデータ解析法の基本的な考え方

マトリックスデータ解析法の大きな役割である「次元を減らす」という処理は、「次元の縮約」や「次元削減」とも呼ばれています。この処理は言葉でイメージしにくいため、具体例をもとに理解を深めていきましょう。

たとえば、ある従業員の勤続年数と製造した製品の良品率に対して、次のような2次元のマトリックスデータが得られたと仮定します。

このデータの関連性を調べるため、散布図へとプロットしてみましょう。

この散布図を見る限り、「勤続年数が伸びれば良品率も高くなる」ことが言えそうですね。つまり、勤続年数と良品率は「1つのデータ」としてまとめても大きな支障がないと考えることができます。

ここで散布図のそれぞれのプロットとの距離の合計が最も少なくなる位置(=元のデータとの違いが最も小さくなる位置)に、「勤続年数」と「良品率」両方を加味した直線を引きました。

この直線が2つの次元を1つに削減した新たなデータとなりますが、ここでは勤続年数と良品率の要素を考慮した「熟練度」と名付けることにしましょう。

マトリックスデータ解析法はこのように、ある程度の相関がある複数のデータを、全ての要素を併せ持つ「新たなデータ」へと変換することで、データの次元数を減らし、処理しやすくすることが基本的な考え方となります。

ちなみに統計学においては、この新たなデータである熟練度を「第1主成分」、第1主成分での表現により失われてしまう、第1主成分と垂直方向のばらつきを表すもう1つのデータを「第2主成分」と表現します。

2次元のデータでは第1、第2主成分で全てのばらつきを表現できますが、第2主成分方向のばらつきが少なく、第1主成分のみである程度データを再現できていると判断できる場合に第1主成分のみを残すことで、次元を1つ削減できるという仕組みです。

結果として、他のデータと「勤続年数」「良品率」を分析する場合に、「熟練度」のみを分析対象とすれば良い状態となりました。今回は視覚化しやすい2次元→1次元の変換を例にあげましたが、この処理は3次元以上のデータに対しても実施することができます。多次元のデータを第1主成分と第2主成分だけで十分に表現することが、マトリックスデータ解析法が目指すべきところとなります。

マトリックスデータ解析法の手順

それではマトリックスデータ解析法の手順について簡単に紹介します。以下の手順は専用の解析ツールを用いて実施することが大半ですので、「どのような処理を行っている」という流れだけ押さえておきましょう。

目的に沿ったデータの収集

まずは得たい情報、分析したい内容に対して、必要と考えられるデータを収集します。製品の改善を図る場合は製品に関するアンケート、従業員の満足度を高めたい場合には業務時間、やりがい、将来への期待など、どのようなデータがあれば目的を果たせるかの視点でデータ収集を行いましょう。

解析ソフトへのデータ入力

次に、収集したマトリックスデータをツールへ入力します。エクセル等の一般的な計算ソフトでの解析も不可能ではありませんが、関数や統計学の高度な知識が求められるため、専用のツールを用いて実施するのが良いでしょう。

データの標準化

収集したデータの多くは、それぞれ異なる単位や基準のもとに集計されているため、そのままの状態では比較ができません。したがって平均値や標準偏差(データのばらつき度合い)を加味してそれぞれのデータの基準を統一する「標準化」と呼ばれる処理を行います。

データごとの相関分析

データを標準化したのちに、各データの関連性を分析します。ここで用いられるのが2つのデータの相関性を数値化する相関分析です。

先の例であれば、勤続年数と良品率にはある程度の関連性が見込めますが、仮に勤続年数と従業員の体力という2つのデータであれば、一貫した傾向がなく、ばらつきも大きくなるでしょう。ばらつきが大きいデータ同士を主成分としてまとめると、次元の削減という本来の役割を果たせなくなってしまうため、事前にデータ同士の相関性を知っておく必要があります。

データの解析

これ以降の処理は特に専門性が高いため、詳しい説明や計算式は省略しますが、以下をはじめとした処理を行うことでデータを解析し、データから何が言えるかの解釈を進めていきます。

固有値の算出各主成分が、元となったデータをどれだけ説明できているか(失ったデータがどれだけ少ないか)を数値で表す指標
寄与率・累積寄与率の算出各主成分が、元となったデータを説明できている割合で、その合計が累積寄与率 80%を超えれば、それ以降の主成分を割愛できると判断するのが一般的
主成分負荷量の算出主成分の元となったデータが、その主成分に対してどれだけ影響しているかを表す指標
主成分得点の算出と可視化新たに作成された主成分上における個々のデータの値 主成分を軸とする2次元〜3次元の散布図へとプロットする場合が多い
主成分の解釈(ネーミング)新たに作成された主成分がどのような意味を持つのかという解釈 例)「勤続年数」と「良品率」を合わせた主成分を「熟練度」と定義する

マトリックスデータ解析法のメリット

マトリックスデータ解析法は専門性の高い手法ではありますが、当然それに見合った大きなメリットが期待できます。

複雑なデータを誰もがわかりやすい形へ変換できる

マトリックスデータ解析法を正しく実施することで、膨大な次元のデータであってもグラフや散布図の形で表現できます。視認性も高まりますし、データから何が言えるか、改善のためには何ができるのかといった議論を活性化させるにおいて大きな役割を果たしてくれるでしょう。

情報処理リソースの節約

膨大なデータの処理はそれだけで多くの時間と労力を要します。人力で分析する場合はもちろん、ツールやシステムを用いて実施する場合であっても同様です。マトリックスデータ解析法によってデータの次元削減を実施することで、処理に要する人的、あるいは機械的なリソースを節約でき、そのメリットはデータが多ければ多いほど大きくなります。

マトリックスデータ解析法のデメリット

大きなメリットが期待できる一方で、マトリックスデータ解析法にはいくつかデメリットがあることも知っておきましょう。

高度な知識と分析ツールが必要

マトリックスデータ解析法の実施には高度な統計学の知識が求められます。ツールでの手順に沿って実施すればデータの処理自体は可能ですが、そのデータがどのようにして生まれ、どのような意味を持つかを説明するには、その処理の工程を具体的にイメージできなければなりません。したがってマトリックスデータ解析法は、新QC7つ道具の中でも難易度が高く、実施が難しい手法だと言えます。

解釈に経験値が求められる

次元の削減において、複数のデータの要素を併せ持つ「新たなデータ」を生み出すことは説明した通りですが、その「新たなデータ」がいったい何を示したものなのか、その解釈も同時に必要となります。

「勤続年数」と「良品率」の例では、2つを合わせたデータを「熟練度」と表現しましたが、このような表現を妥当かつ第三者にもわかりやすくネーミングするにあたっては豊富な実務経験も必要となるでしょう。

マトリックスデータ解析法で一歩進んだ品質管理を

マトリックスデータ解析法は高度な知識を求められることから、本格的に取り組めている企業は少ないでしょう。すなわち、この手法を使いこなすことができれば、他社より精度の高い業務改善や品質管理が実施できると考えられます。

このような統計処理や分析はAIやデータ解析システムにより自動化されつつある側面もありながら、最終的な解釈や考察で人の手を欠かすことはできず、それゆえに実際の処理工程に対して具体的なイメージを持っておくことは引き続き重要です。ぜひこれを機に、マトリックスデータ解析法が根差している統計学への理解を深めてみてはいかがでしょうか。

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