従業員1人が1時間働いた場合に生み出す利益のことを人時生産性(にんじせいさんせい)と呼びます。ビジネスシーンの中でも、とくに製造業や飲食業、小売業などでよく用いられている指標で、この数値が高ければ高いほど、短時間で効率よく利益を生み出している状態です。
本記事では、人時生産性の特徴や人時生産性の改善で得られる効果、改善の方法について解説します。
人時生産性とは
人時生産性とは、従業員1人が1時間でどれだけの利益を生み出しているのかを示す指標です。投入した人的リソースに対しどれだけのリターンが得られているのかが明確になることから業務効率を測る指標として幅広く用いられており、人時生産性が高いほど短時間で価値の高い商品やサービスを提供できていると評価できます。
なぜ人時生産性の改善が求められるのか
企業が売上や利益の拡大を目指すにあたっては、従業員各々の生産性を高めることが最大のテーマとなります。もちろん従業員数を増やすことでも処理できる業務量、すなわち売上の向上は見込めますが、それに伴い人件費も生じる点に加え、そもそも人手不足が多くの企業の課題となっている昨今では現実的な方法とは言えません。
そこで、今いる従業員がより効率的に業務を進められる状態が求められます。各従業員のリソースを効率化し、組織全体の生産性を向上させることが売上や利益の改善につながるため、その評価指標である人時生産性の重要度が高まっているのです。
さらに人時生産性は、DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務のデジタル化とも密接に関係しています。詳しくは後述しますが、人時生産性を高める方法は端的に言えば、「利益を上げる」「労働時間を減らす」のいずれかです。しかし、短期的に利益を上げるのは難しいと考える企業が多いでしょう。そこで労働時間を減らす取り組みを優先的に進めることとなりますが、その過程で労働時間削減の手段となり得るDXやデジタル化が進むというケースがまま見られます。
人時生産性の算出方法や平均データ
人時生産性の算出方法はシンプルで、以下の式に当てはめるだけで計算できます。
人時生産性=粗利(売上高−諸経費)÷総労働時間(従業員数×労働時間) |
たとえば、従業員4人が5時間ずつ働き、売上高が50,000円、そのうち諸経費として5,000円かかったとすると、「(50,000−5,000)÷(4×5)=2,250」となり、人時生産性は2,250円ということになります。
ちなみに、中小企業庁の「中小小売業・サービス業の生産性分析(2021.6)」によると、人時生産性の業種平均は、製造業で2,837円、小売業で2,444円、飲食店1,902 円となっています。
人時生産性を上げることで得られる効果
人時生産性を改善することで、企業としてさまざまな効果が期待できます。どのような効果があるのか、具体的に見ていきましょう。
工数削減や売上アップにつながる
人時生産性改善の第一歩は、作業工数を正しく把握し、ムダを排除することです。ムダが可視化できればより具体的な改善施策をとることができ、工数削減により節約できたリソースをより売上に寄与するコアな業務へと充てることで、売上向上に向けた業務や取り組みを強化できます。
従業員満足度の向上につながる
企業側の工夫により、人時生産性を改善させる仕組みやルールを構築できれば、従業員の負担も軽減され、結果的に従業員満足度の向上につながります。前述した通り人時生産性の改善において重要な要素が労働時間の削減であり、その効果は残業の抑制やワークライフバランスの改善など、従業員が実感できる形で現れるでしょう。
顧客満足度の向上が見込める
人時生産性の改善は、言い換えれば「1つの業務をこなすスピードが短くなる」ということですが、これは従業員だけでなく、ユーザー目線でもメリットがあります。カスタマーサポート業務を例にあげると、対応までの待ち時間の短縮は、そのまま顧客満足度の向上につながるでしょう。
その他の業種、職種においてもより質の高い成果を顧客に提供できることから、企業の信頼度や、口コミなどを通した企業の評価が高まるといった効果が期待できます。
人時生産性を改善する4つの方法
それでは、人時生産性の改善に向けてはどのような方法が考えられるのでしょうか。主な4つの施策について紹介します。
方法1:研修やeラーニングを充実させる
人時生産性を改善するためには、現場で働く従業員のスキルアップを支援するアプローチが有効です。社内研修やOJT等コーチングの強化がその代表例ですが、独自の研修プログラムの策定や日々の社内講習の設定、eラーニングの活用、資格の取得支援などを取り入れている企業が増えています。
方法2:社内の人材配置を最適化する
人と仕事のマッチングも重要です。「適材適所」とも言われるように、従業員の性格や気質によって相性のいい仕事とそうでない業務があります。適性に合わない業務を無理に担当させるよりも、本人の適性や希望に合ったポジションへと配置転換する方が長期的に業務効率が高まることは間違いありません。
「ある従業員が苦手だと感じている業務で、実は高い生産性を発揮していた」といったように、客観的な評価で初めて適性が判明する場合もあります。とはいえ生産性が高いからといって「やりたくない業務」を強制するのは好ましくないため、適性と本人の意向の調整は図るべきでしょう。
方法3:従業員満足度の向上につながる施策を打つ
従業員の満足度は、人時生産性の改善に重要な役割を果たします。その計算式上、労働時間の抑制が人時生産性の改善に直結する側面もありますが、それ以上に資格取得支援を行う、健康診断や休暇制度といった福利厚生を充実させるなどの方法で従業員のモチベーションを高めることでも、業務効率は向上するものです。
方法4:業務効率化につながるツールを導入する
業務にITツールやシステムを導入し業務効率化を図ることで、大幅に人時生産性を改善できる可能性があります。特に、ルーティン業務をはじめとした単純作業は機械やシステムで自動化し、人間にしかできないコアな業務に人員を充てることができれば、利益と労働時間の両面から人時生産性を押し上げてくれることでしょう。
また、従業員のスケジュールやタスク管理を効率化するツールも開発されています。タスク過多の状態は業務効率と従業員のモチベーションの両方に悪影響を与えるため、タスク管理の徹底と業務負担の分散により人時生産性を改善するアプローチも欠かせません。
人時生産性の改善施策の具体例
人時生産性を高める方法について、施策の具体例をもとにより詳しく解説していきます。前述した改善の方法を踏まえた施策として、さまざまなバリエーションが考えられるため、以下の具体例をもとに自社独自の施策を検討するのも良いでしょう。
「スペシャリスト」を外部講師として呼ぶ
従業員のスキルアップのために、その分野のスペシャリストを外部講師として招き、研修や勉強会を実施すると効果的です。コストはかかりますが、新しい情報に触れられる、専門性が高く説得力があるといったメリットがあります。
もちろん、社内にもある分野や業務に精通したベテラン従業員、すなわち「スペシャリスト」がいるでしょう。そのような従業員を筆頭に、社内で研修や勉強会を開催できる、また誰もが参加できる制度を定めるのも一手です。研修や勉強会への取り組みを人事評価において加味するなど、何らかのメリットを設定することで従業員のモチベーションや参加率が高まります。
部署異動の公募制度を設ける
前述のとおり、従業員の適性と人時生産性を切り離すことはできません。つまり、従業員側からも部署異動を希望しやすい環境を作ることが、人時生産性の高い働き方を実現するといえます。
たとえば、条件なく自由に応募できる社内公募制度などを取り入れると、より従業員が行動しやすく、適性に合った業務を担当できる機会が増えるでしょう。またこのような取り組みは、部署間でノウハウを共有し、業務を改善する効果も見込めます。ただし、新たな業務に慣れるまで一時的に生産性は低下するため、速やかに業務に適応するためのマニュアルの整備や研修制度の充実も同様に必要となる点は押さえておかなければなりません。
「資格手当」や「補助金」などの福利厚生を充実させる
福利厚生は、交通費から住宅手当、休暇、健診制度まで多岐に渡りますが、充実させればさせるほど、働きやすい環境となり、従業員のモチベーションアップにつながります。特に、資格取得援助や資格手当、補助金などスキルアップにつながる福利厚生の充実は従業員満足度を高め、生産性の向上にも大きく貢献します。
人時生産性の改善はDX推進も促す
人時生産性の特徴や算出方法、人時生産性を上げることで得られる効果とその方法について紹介しました。人時生産性の改善は企業の業績向上に貢献するだけでなく、従業員満足度が上がり離職率が低下する、顧客満足度や信頼感の向上につながるなど、多くのメリットが期待できます。
そして人時生産性の改善を目指すことで、必然的にデジタル技術や、研修制度の導入や人材配置の見直しといった「組織のあり方」への理解が深まります。この機会に、人時生産性の改善と、その手段としてのDXを検討してみてはいかがでしょうか。