【2026年展望】物流業界で人手不足は限界に！？残業規制の中、生き残るための方策とは？

2025.12.02

物流業界は今、深刻な人手不足倒産の危機に直面しています。特に2026年に施行される残業規制により、物流運輸業界の労働環境は大きく変化し、これまでの長時間労働に依存した業務体制の維持が困難になることが予想されています。人手不足倒産の件数は年々増加傾向にあり、物流運輸業界でも倒産リスクが高まっているのが現状です。この記事では、2026年問題が物流業界に与える影響と、人手不足倒産を回避するための具体的な対策について詳しく解説します。

物流運輸業界における人手不足倒産の現状

物流運輸業界では、人手不足に起因する倒産が急激に増加しており、業界全体の存続が危ぶまれる状況となっています。

人手不足倒産の件数推移と業界への影響

東京商工リサーチの調査によると、人手不足倒産の件数は2020年から2024年にかけて大幅に増加しています。物流運輸業界においては、特にトラック運送業での倒産が目立っており、中小企業を中心に経営の維持が困難な状況が続いています。

人手不足倒産の主要因には、ドライバーの高齢化と若手人材の業界離れがあります。データでは、トラックドライバーの平均年齢は全産業平均より約5歳高く、40代後半となっています。

業種別の人手不足状況と倒産リスク

物流運輸業界の中でも、特に長距離輸送を担うトラック運送業や宅配業では人手不足が深刻です。これらの業種では、長時間労働が常態化しており、労働者の離職率も高くなっています。

倉庫業においても、EC市場の拡大に伴う物量増加により、作業員の確保が困難な状況が続いています。特に夜間や休日の勤務を要する業務では、人材確保がより一層困難になっており、事業継続のリスクが高まっています。

2026年問題が物流運輸業界に与える影響

2026年4月から施行される働き方改革関連法により、物流運輸業界は根本的な変革を迫られることになります。

残業時間の上限規制による輸送力の大幅減少

現在、物流運輸業界では年間960時間までの残業が認められていますが、2026年からは一般的な業種と同様に年間720時間までに制限されます。この規制により、業界全体の輸送力が約14％減少すると予想されています。

特に長距離輸送では、これまでドライバー1人が長時間運転することで効率性を確保してきましたが、労働時間の制限により同じ距離を運ぶために複数のドライバーが必要となります。しかし、現在でもドライバー不足が深刻な中で、追加のドライバー確保は極めて困難な状況です。

コスト増加と価格転嫁の課題

労働時間の制限により、企業は以下のようなコスト増加に直面することになります。ドライバーの増員による人件費の上昇、配送効率の低下による燃料費の増加、車両の追加購入や維持費の増大などが挙げられます。

これらのコストを運賃に転嫁する必要がありますが、荷主企業の理解を得られるかどうかが大きな課題となっています。価格転嫁ができない場合、利益率の悪化により経営状況がさらに厳しくなり、人手不足倒産のリスクが一層高まることになります。

ドライバーの増員に伴う人件費の増加
配送効率低下による運行回数の増加
車両追加購入による設備投資費の増大
燃料費や高速道路料金の増加
管理コストの増大

人手不足倒産を防ぐための多角的な人材確保戦略

物流運輸業界が生き残るためには、従来の採用手法にとらわれない多角的なアプローチが必要です。

女性ドライバーの積極的な採用と活用

現在、トラックドライバーに占める女性の割合は約3％と非常に低い状況です。女性ドライバーの採用拡大は、人手不足解消の重要な解決策の一つとなります。女性が働きやすい環境の整備を行うことで、新たな人材プールを開拓できます。

具体的な取り組みとしては、女性専用休憩室の設置、育児支援制度の充実、短時間勤務制度の導入などが効果的です。また、小型トラックや軽貨物車を活用した配送業務では、女性の力を十分に発揮できる環境が整備しやすくなります。

高齢者の活用と定年延長制度の導入

経験豊富な高齢ドライバーの活用も重要な戦略です。定年延長制度や再雇用制度を充実させることで、技能と経験を有する人材を継続して活用できます。

高齢者の雇用においては、健康管理サポートの強化、勤務時間の柔軟化、身体的負担の軽減などの配慮が必要です。また、若手ドライバーへの技術指導や安全教育を担う役割も期待できます。下記の取り組みにより、高齢者が安心して長く働ける環境を整えつつ、組織全体の人材力向上にもつなげることができます。

健康診断の頻度を増やし、健康状態の継続的な管理
短時間勤務や週3日勤務などの柔軟な働き方の導入
身体的負担の少ない近距離配送への配置転換
安全運転技術の指導者としての活用
再雇用制度の条件改善と処遇の向上

外国人労働者の受け入れ拡大

技能実習制度や特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れも、人手不足解消の有力な手段となります。ただし、言語の壁や文化の違いを考慮した受け入れ体制の整備が重要です。

外国人労働者の受け入れには、日本語教育の支援、生活面でのサポート体制の構築、安全教育の充実などが必要となります。また、長期的な雇用を前提とした育成プログラムの策定も重要です。

労働環境の抜本的改善による人材定着戦略

人材の確保だけでなく、既存従業員の定着率を向上させることも人手不足解消の重要な要素です。

賃金水準の向上と待遇の改善

物流運輸業界の賃金水準は他業界と比較して低く、これが人材流出の主要因となっています。適正な賃金体系の構築と処遇改善により、既存従業員の満足度向上と新規人材の確保が可能になります。

賃金改善の具体策としては、業績連動型の賞与制度の導入、技能に応じた昇給制度の確立、各種手当の充実などが挙げられます。また、福利厚生の充実により、総合的な待遇向上を図ることも重要です。

休日確保と働き方改革の推進

従来の物流運輸業界では、週休1日制が一般的でしたが、人材確保のためには週休2日制の導入が急務となっています。適切な休息時間の確保により、労働者の健康維持と仕事への意欲向上が期待できます。

また、有給休暇の取得促進、労働時間の適正管理、メンタルヘルスケアの充実なども重要な取り組みとなります。働き方改革の推進により、業界のイメージアップと人材確保の好循環を生み出すことができます。下記が、労働環境改善のアクションプランを示す比較表になります。

改善項目	従来の状況	改善後の目標	期待効果
週休日数	週休1日	週休2日	離職率の低下
有給取得率	30％未満	70％以上	満足度向上
残業時間	月80時間超	月60時間以内	健康維持
賃金水準	全産業平均以下	全産業平均以上	人材確保

デジタル技術と自動化による業務効率化の推進

人手不足を根本的に解決するためには、デジタル技術の活用による業務効率化が不可欠です。

配送ルート最適化システムの導入

AI技術を活用した配送ルート最適化システムの導入により、配送効率の大幅な改善が可能になります。最適なルート設定により配送時間を短縮し、限られた人員でより多くの業務を処理できるようになります。

GPS技術とリアルタイムの交通情報を活用することで、渋滞回避や燃料消費の削減も実現できます。また、配送状況の可視化により、顧客への正確な到着時間の通知も可能になり、顧客満足度の向上にも寄与します。

自動倉庫システムと作業支援ロボットの活用

倉庫業務においては、自動倉庫システムの導入により、人的作業を大幅に削減できます。自動仕分けシステムや作業支援ロボットの活用により、少ない人員で効率的な物流業務が可能になります。

また、RFIDタグやバーコードシステムを活用した在庫管理の自動化により、作業ミスの削減と業務スピードの向上が実現できます。これらの技術導入により、単純作業を機械に任せ、人間はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。

自動仕分けシステムによる作業時間の短縮
AGV（無人搬送車）による倉庫内輸送の自動化
ピッキング支援システムによる作業効率の向上
在庫管理システムの自動化による人的ミスの削減
予測分析による需要予測の精度向上

テレマティクスとIoT技術による運行管理の効率化

車両にテレマティクス装置を装着することで、運行状況のリアルタイム監視が可能になります。ドライバーの運転行動や車両の状態を把握し、安全運転の指導や車両メンテナンスの最適化を行えます。

IoT技術により収集されたデータを分析することで、燃費改善や事故防止、車両の予防保全などが実現でき、総合的な業務効率化につながります。また、ドライバーの労働時間管理も自動化され、コンプライアンスの確保にも役立ちます。

共同配送とモーダルシフトによる物流効率化戦略

業界全体での連携により、人手不足の影響を軽減する取り組みが重要になってきています。

共同配送システムの構築と運用

複数の企業が連携して共同配送システムを構築することで、配送効率の向上と人員の有効活用が可能になります。配送ルートの集約により無駄な運行を削減し、限られたドライバーで最大の効果を得ることができます。

共同配送の実現には、企業間での情報共有システムの構築、配送スケジュールの調整、コスト分担の仕組み作りなどが必要です。また、異なる企業の商品を同一車両で配送するため、商品管理や責任分界点の明確化も重要な課題となります。

モーダルシフトによる長距離輸送の効率化

トラック輸送から鉄道や船舶輸送への転換（モーダルシフト）により、長距離輸送における人手不足の影響を軽減できます。特に大量輸送が可能な貨物については、鉄道輸送の活用が効果的です。

モーダルシフトの推進には、鉄道貨物ターミナルや港湾施設の整備、異なる輸送モード間の連携強化、輸送スケジュールの最適化などが必要となります。また、CO2削減効果も期待でき、環境負荷軽減の観点からも有効な戦略です。実行すべき推進項目は下記のとおりです。

長距離幹線輸送の鉄道への転換
港湾を活用した内航海運の利用拡大
中継輸送システムの構築
複合一貫輸送の推進
貨客混載による効率化の推進

政府支援策と業界団体の取り組み活用法

物流運輸業界の人手不足対策には、政府や業界団体からの支援を積極的に活用することが重要です。

政府の物流効率化支援制度の活用

国土交通省では、物流業界の労働環境改善や効率化を支援するための各種制度を提供しています。補助金制度を活用することで設備投資の負担軽減が可能になり、デジタル化や自動化の推進に役立ちます。

主な支援制度には、物流効率化補助金、労働環境改善助成金、デジタル化推進補助金などがあります。これらの制度を効果的に活用することで、人手不足対策への投資を促進できます。

業界団体による人材育成プログラムの活用

全日本トラック協会などの業界団体では、新規ドライバーの育成や既存従業員のスキルアップを支援するプログラムを提供しています。これらのプログラムを活用することで、人材育成のコストと時間を削減できます。

また、業界全体での安全教育や労働環境改善の取り組みにより、物流運輸業界のイメージアップと人材確保の促進が期待できます。業界団体との連携により、個社では困難な取り組みも実現可能になります。下記は、業界団体の支援制度に関する説明表になります。

支援制度	対象	支援内容	申請時期
物流効率化補助金	中小企業	設備投資費の1/2補助	年2回募集
労働環境改善助成金	全事業者	改善費用の2/3補助	随時
デジタル化推進補助金	中小企業	システム導入費の3/4補助	年3回募集
人材育成支援金	全事業者	研修費用の1/2補助	随時