製造業でのIoT活用は多くの場合、インダストリー4.0やConnected Industriesといった大規模な政府主導のプロジェクトと共に紹介されます。
スマートファクトリーやサプライチェーンの最適化など、IoTを活用したメリットは製造業を大きく進歩させるでしょう。しかし、いざ自社で抱える工場にIoTを導入するとなると、多くの課題が発生します。
そこで今回は、IoT導入時に気をつけたい注意点やポイントを紹介します。
IoTへの誤解と注意点
一口にIoTといっても、そのシステム環境構築には、多くの技術的要素が必要になります。また、IoTがいかに革新的な技術だとしても、導入することが目的となってはいけません。
IoTへの期待と現実とのギャップ、技術的な課題、ビジネスへの発展を考慮した上での導入が重要です。
IoTは安いという危険な認識
IoTの導入は安いと認識している企業は、注意が必要です。そうした誤解を招く要因に、IoTとセンサ技術の関係性があげられます。
センサは、モノの動き・状態を検知し、モノ同士の通信を可能にするIoTの基本的な機能を支える重要な技術です。
センサにはさまざまな種類があり、その料金はピンからキリまで幅広く設定されています。しかし、実際にIoTを活用するには、センサを搭載したIoTデバイスと、さらにはネットワーク、クラウドといったシステム環境を構築して初めてその効果を発揮できます。
そうした環境構築は、IoTを導入する目的や周辺環境によって左右されるため、ユーザーに沿ったカスタマイズが必要になり、開発・設計費用を上乗せすると、決して安価なものではありません。
企業の既存システムを活かして安く導入するIoTを目指すのか、企業の課題に沿ったカスタマイズを経て業務効率化や新規ビジネスの創出につながるIoTを目指すのか、IoTの導入は大きく2つに別れるといえます。
しかし、既存品を利用する前者では、企業の特色が固まり、時代に即さなくなった場合に淘汰される恐れがあります。
今後さらに激化するデジタル時代では、より柔軟に技術を取り入れアップデートし続けられる後者が、有利な企業活動を維持できるでしょう。
デバイスと通信の課題
IoTデバイスで収集されたデータは多くの場合、無線ネットワークを通じてクラウド上のサーバで分析処理されます。
データ収集という役割を担うIoTデバイスは、主にセンサやCPU、メモリを搭載しています。
しかし、工場のIoT化など多くのIoTデバイスの設置が必要とされるケースでは、IoTデバイスのCPU性能は低く、収集したデータをそのままサーバに送信します。
デバイス側でクレンジングされずに、不要なデータも送信すると、一度の通信でかかる通信容量は膨大です。
その結果、サーバに大きな負荷がかかるため、通信費の拡大やサーバでの処理時間が増加し、リアルタイム性が求められる業務に支障をきたす恐れがあります。
そこで、デバイスと通信の課題を解決するために、近年「エッジコンピューティング」と呼ばれるネットワーク技法に注目が集まっています。
エッジコンピューティングは、IoTデバイスの近くでデータを処理するため、インターネットには必要なデータだけを送信し、通信容量の増加やサーバにかかる負担を分散可能です。
サーバの処理遅延を回避し、データ分析後の処理結果をIoTデバイスへ迅速にフィードバックするなど、通信時の問題を解決できます。
エッジコンピューティングは、IoTデバイスそのものに処理機能を持たせる場合と、複数のIoTデバイスから収集したデータを集約しサーバに送信する場合に分かれます。
後者をIoTゲートウェイと呼びます。どちらにせよデータを処理するCPU性能の向上や、データベースを開発する必要があるため、サーバのみで処理を行うネットワーク技法よりもコストがかかるでしょう。
そのため、通信費やIoTデバイスの設置台数などを考慮し、自社にあったシステム環境の構築、コストバランスが重要です。
業務効率化や課題解決で終わらない
工場の効率化だけを念頭においたIoTでは、既存のビジネスから変化することはできません。
IoTの導入は経営戦略と並行して進め、企業の目的に沿った形でシステム環境をカスタマイズする、もしくはIoTに知見のある開発業者からの客観的な提案を受け検討することが重要です。
IoTという技術を「買う」のではなく、IoTを前提としたビジネスの「設計」を検討しましょう。
IoT導入のポイント
IoTの導入効果は多岐にわたり、すでに多くの企業で成功事例が生まれています。しかし、そもそもIoTを業務のどこに導入すべきなのか、頭を悩ませる企業も多いことでしょう。
ここではIoTを導入する際のポイントや考え方を紹介します。
視点を変えたアイデアが重要
センサによるデータ収集は、技術に依存します。一方で、既存のセンサであっても、センサの組み合わせやアイデアによってそれまで取得できなかったデータの取得が可能になる場合があるのです。
例えば、液状の薬品が入ったタンクの容量を計測する際に、直接溶液の中に水圧センサを設置できない場合、タンクのキャップ部分に距離を測るセンサをつけることで、水位の変化から容量を測ることができます。
また軽すぎて重量が測れなかった物の在庫を管理する際にも、重量を測るセンサではなく、距離を測るセンサで物の動きを検知すれば、在庫の変化が検出できます。
視点を変えることで、これまで人の手がかかっていた作業も、IoT技術によって自動化・効率化できるのです。
視点を変えた技術の活用は、単に工場内の業務効率化を進めるだけではなく、メンテナンスなど企業のシステムのひとつとして活用できれば、「モノ」売りではなくサービスとしての「コト」売りへの活用が検討できます。
PoCの実施
PoC(Proof of Concept)とは新しいビジネスやプロジェクトを立ち上げる前に、実施予定のコンセプトや施策が実現可能か、効果が出るのかを検証することを指します。
日本語では「概念実証」と呼びます。ここでポイントとなるのが、検証によって多くの収穫を得ることを目的にせず、実現したい要素の有効性を迅速に見極める点です。
IoTという比較的新しい「概念」に基づいた仕組みをビジネスやプロジェクトに取り入れる際、その仕組みの適応範囲や仕様を明確に定めることは困難といえます。
そのため、PoCを繰り返し行うことで、徐々に対応範囲を広げ、仕様を明確にしていくプロセスが重要です。
しかし、IoTに対し誤った認識のままPoCを進めると、経営と現場間でギャップが生じ、そこから先に進めず失敗に終わるケースがあります。
ソフトウェア感覚で気軽に導入できるものであれば、PoC後の見直しや再検討も可能ですが、製造業におけるIoTはハードウェアが必要な場合が多いため、コスト面でのギャップが生じやすくなるでしょう。
そのためIoT導入時には、PoCにかかる費用を含めた経営戦略を立て、支出と収益をシミュレーションし、利益の創出を前提に進めることがポイントになります。
小さく始めて大きく育てる
センサ技術や無線通信技術、クラウドなど、IoTに関係する技術はすでに身近なものとなっています。
5GやAIなどと共に、テクノロジーの主流となるIoTは、今後も進化し周辺環境も大きく変化していくでしょう。
取り扱いやビジョンが不明という理由で傍観していては、IoTを駆使し新たな価値を創造する競合との競争に負ける恐れがあります。
IoTは多くの分野にまたがり、その適用範囲も非常に広い概念です。
IoTを導入する際はまず、明確な課題を改善する方法としてスモールスタートし、時には他企業と共同しながらデータを活用した新規ビジネス、サービスの創出に拡大することが重要です。
そのためにも、常に変化する顧客ニーズに対応しながら、IoT活用で生まれるプロトタイプの構築を繰り返し早く作れる環境を整える必要があります。
自社の強みと提供価値に対してどのようにIoTを連携させるか、急速に進むIoTビジネスの世界では、他企業よりも早く適切な技術開発ができるかがポイントになるでしょう。
最適なIoTの導入は企業によって異なる
ここまでIoT導入時の注意点とポイントを紹介しましたが、必ずしも全ての企業に当てはまるものではありません。
IoTを構成する技術要素は多岐にわたるため、検証しながら最適なものを見つける必要があります。
つまりIoTのベストな活用は、取り入れる場所、環境によって常に変化するため、企業のセキュリティポリシーや課題に沿った技術の開発・設計が重要です。
しかし昨今、さまざまなな業界で人材不足が問題となってています。
IoTの導入には多くの技術に対する知見が求められるため、IT人材の不足はIoTを検討する企業にとって大きな課題となります。それは製造業界も例外ではありません。
そこで活用したいのが、企業のIoT化を支援する技術開発・設計を担う専門企業からのサポートです。
特に複数のIoTデバイスの設置が考えられる工場のIoT化では、機器一つの故障が全てのシステムに影響を及ぼす恐れがあるため、信頼のおける技術を持つ専門企業の選定が重要になります。
株式会社フェニックスエンジニアリングでは、無線通信技術をコア技術とした開発・設計・製造サービスを提供しています。新しいLPWAの方式であるZETAやELTRESの活用、エッジコンピューティングが可能なワイヤレス・有線のIoT端末に取り組んでいます。
企業の課題に沿ったIoTの企画構想から設計、工場への導入までトータルでのサポートが可能です。導入前には事前の実証実験を重ね、通信障害やノイズの影響を洗い出した上で、企業の業務を止めないIoTの導入に貢献します。