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グローバルサプライチェーンとは?メリット/デメリットと事例の紹介

グローバルサプライチェーンとは?メリット/デメリットと事例の紹介

本記事では、製造業の海外展開で注目される概念「グローバルサプライチェーン」の詳細について触れていきます。製品供給体制の安定化やコスト削減においては、海外拠点や取引先を含めたグローバルサプライチェーンの最適化が重要です。

自社の製造事業を拡大するために、海外に営業所や製造拠点を展開することは珍しくありません。小さな島国である日本では原材料の調達や製造規模に限界はあるため、一定以上事業を大きくするには海外展開は避けられないでしょう。原材料費や人件費を抑制できる可能性もあります。

このような、「世界規模で構築された」商品製造における一連の流れであるグローバルサプライチェーンが今、岐路に立たされているのをご存知でしょうか。本記事では、グローバルサプライチェーンの概要やメリットデメリット、代表的な構築事例を解説します。

グローバルサプライチェーンとは

グローバルサプライチェーンとは、製品の材料調達から製造・販売に至る一連の流れである「サプライチェーン」を、海外拠点や取引先など世界的な範囲まで拡大した概念です。

1980年代に発生した日米間の貿易摩擦以降、日本企業による生産ラインの海外展開が活発化し、多くの企業でアジア圏を中心としたサプライチェーンの多様化が進んでいます。しかし近年になって、生産拠点を海外展開することのリスクや脆弱性が明らかになりました。

サプライチェーンのグローバル化の背景

サプライチェーンのグローバル化自体は、海外展開に伴う現地調達・現地生産による人件費や材料原価の削減を主な目的として取り組まれてきました。特に近年は、テクノロジーの進化、通信網の改善によってグローバル化の流れは加速の一途をたどっており、企業の国際競争力を高めるには海外拠点の存在が欠かせなくなっています。

一方で、従来のグローバルサプライチェーンは特定の地域や国に依存しているケースが多く、かねてより国際情勢の不安定化や地政学的リスクが懸念されていたのも事実です。実際、世界経済の変化や通商問題によって、輸送費や燃料費、為替相場はここ数年で大きく変動しています。また、近年発生したコロナ禍でのロックダウンにより、サプライチェーンが断絶するケースが世界各国で多発しました。

これらを踏まえ、現代のビジネススピードや世界情勢の変化に対応するために、グローバルサプライチェーンをより強靱化・高度化する必要が生じています。

「デジタル時代におけるグローバルサプライチェーン高度化研究会」の発足

従来のグローバルサプライチェーンのリスク顕在化を受け、経済産業省と民間の有識者の連携により「デジタル時代におけるグローバルサプライチェーン高度化研究会」が発足しました。

2022年6月2日に第1回研究会が開催され、アジア地域を中心としたグローバルサプライチェーンについて議論がなされています。

参考:第1回 デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会(METI/経済産業省)

グローバルサプライチェーンがもたらすメリット

グローバルサプライチェーンが企業に与える恩恵は、販路の拡大や国際競争力の強化に留まりません。まずは、グローバルサプライチェーンの構築がもたらすメリットについて解説します。

製品供給体制の安定化

グローバルサプライチェーンには、海外拠点を含めた調達〜流通の一連の生産ラインを最適化することで、拠点間の連携を強め、リードタイムを短縮する力があります。

また、生産拠点を複数の国に設置すればリスク分散にもなり、国際情勢の不安定化や国交の問題が生じた場合でも他国の拠点でサプライチェーンを維持するリスクヘッジが可能です。

在庫の最適化によるコスト削減

生産ラインの管理体制や拠点間の連携が強化されれば、リアルタイムの情報共有や流通網の最適化によって不良在庫や廃棄の発生を抑制できます。

従来より製造拠点の海外展開は、原料価格や人件費を抑え、廉価で質の高い製品を提供することが主な目的でした。連携の取れたグローバルサプライチェーンでは加えて、在庫の保管コストや廃棄コストといった間接的なコストを削減する効果が期待できるでしょう。

取引の最適化・拡大

現地調達、現地生産ができている状態であれば同地域での販売機会を得やすく、製品の輸送コストも抑えられます。また、販売だけでなく調達においても、世界中の企業からより高品質、低価格の資材調達ができるかもしれません。

上記の理由から、グローバルサプライチェーンを構築できていることは取引先からしても魅力であり、より強固なビジネスネットワークの構築にもつながる要素です。

グローバルサプライチェーンのデメリット

グローバルサプライチェーンは多大な恩恵がある一方、構築の難易度や文化の違いなど、実現にはさまざまな壁が存在します。

管理の難しさ

海外拠点は日本国内の拠点や取引先と物理的に離れていることから、実態や状況の把握が難しくなります。加えて海外では国ごとに法律や商習慣、文化、通貨など多くの要素が異なるため、各国の拠点で独自の管理体制やマニュアルを構築しなければなりません。

国内拠点に比べ、管理のための基盤や人材を強化する必要があるほか、ERP(統合基幹業務システム)やサプライチェーンマネジメントに特化したシステムの導入は必須と考えて良いでしょう。

関連記事:製造業界必須の知識、サプライチェーンマネジメントとは?

為替変動リスクの増大

複数拠点での取引となれば、それに応じた為替取引が発生するため、それぞれの通貨に対する変動リスクに備えなければなりません。

たとえば新興国通貨の場合、先進国と比べ通貨の流動性が低いため、為替の変動リスクが高くなります。

新興国や発展途上国は原材料や人件費を抑えやすいため、多くの企業が拠点先として人気です。しかし、先進国に比べ国際情勢が不安定化するリスクが高く、通貨価値が暴落する可能性も否定できません。

これらの影響を軽減するためには、為替リスクをヘッジする資産保有や金融取引など、財務レベルのアクションが必要となります。

サプライチェーン攻撃のリスク増大

サプライチェーンが海外にも及ぶことで、サプライチェーン上の関連企業を足がかりとしたサイバー攻撃である「サプライチェーン攻撃」のリスクが世界規模で生じます。特に近年では企業のDX化推進の流れから、製造機器や管理システムをネットワークで包括的に把握しているケースも少なくありません。

海外拠点や海外の関連企業を経由した本社システムへの侵入を防ぐには、セキュリティポリシーの策定や取引先のセキュリティレベルの担保など、グローバルかつ専門的な知識が求められます。グローバルサプライチェーンの構築に際しては、セキュリティ部門の強化も検討しなければなりません。

関連記事:サプライチェーン攻撃とは?手法や事例から学ぶ5つの対策方法

グローバルサプライチェーンの事例

それでは、グローバルサプライチェーンの構築に取り組んでいる日本企業の事例を見ていきましょう。

株式会社ファーストリテイリング

ユニクロで知られる株式会社ファーストリテイリングは「無駄なものをつくらない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」を方針として掲げ、世界のトップ企業と連携しながらサプライチェーンの最適化を図っています。

同社の従来の販売戦略は、企画〜販売に至るまでのリードタイムの長さ、サプライチェーン上の重要な情報や数値が不透明、関連企業同士で情報共有が十分にされていないなど、多くの課題を抱えていました。

課題は結果として多くの在庫と販売動向との不連携という形で顕在化しています。そこで同社が実施したのが、企業とのパートナーシップです。企画・生産・物流の各工程をトップ企業と連携することで、スピーディーかつ透明度の高い生産体制を構築しています。

例えば企画段階では、Googleと連携して検索エンジンやAI技術を活用。リアルタイムの情報や顧客情報を収集し、高度な分析を実施しています。

また、非接触型の自動認識技術「RFID」を全サプライチェーン上に設置し、在庫管理にかかる労力とリードタイムの大幅短縮に成功しました。

販売データに基づく商品企画や販売戦略、在庫の最適化による物流と在庫の最適化、グループウェアによる全拠点でのシームレスなコミュニケーション体制を構築した事例です。

参考:サプライチェーン改革について

株式会社キヤノン

世界中の数千のサプライヤーから材料調達をおこなっている株式会社キヤノンでは、調達方針やサプライヤーの行動規範を定め、企業倫理の遵守、透明化に努める「オープン調達」を掲げています。

サプライヤーに対する取り組みとしては、行動規範に基づいた審査の実施や定期調査、監査による改善を行い、サプライチェーン上全ての関連企業を包括的に管理、指導することです。

また、世界中のサプライヤーの情勢を考慮して、一部武装勢力の資金源になっている鉱石採掘でないことを証明する米国の「Dodd-Frank法」や、イギリスの人権リスクに対する法律「現代奴隷法」など、国毎の法律を勘案した対応を心がけています。

調達した部品・材料のみならず、サプライヤー側のサプライチェーンまで含めて評価し、環境への負荷を最小限に抑えるためのグローバルサプライチェーンマネジメント体制を構築した事例です。

参考:サプライチェーンマネジメント | キヤノングローバル

日本ガイシ株式会社

約800社からなるサプライチェーンをもつ日本ガイシ株式会社は「門戸解放・共存共栄・社会的協調」の方針を掲げ、サプライチェーンを含めたグループ全体の連携・調達力強化とガバナンス確保の両立に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、CSR(社会的責任)の観点での調達やグローバル取引ネットワークシステムの導入、サプライヤーアセスメントの制定を実施し、サプライチェーン上の情報を集約することに注力しました。

同社は上記のような徹底したサプライチェーンマネジメントによって、2022年度に約3.8億円のコストダウンに成功しています。

参考:サプライチェーンマネジメント | 社会 | 日本ガイシ株式会社

グローバルサプライチェーンの構築はパートナーシップとサプライヤーの協力がカギ

グローバルサプライチェーンは単なる製造拠点の海外進出ではなく、現地企業とのパートナーシップ、サプライヤーのアセスメントが重要な取組です。紹介事例からもわかるように、綿密なガイドラインの制定とトップ企業との連携が成否のカギを握ります。

また、構築の第1歩目としてはデジタルテクノロジーを活用した取引ツールの導入やマネジメントシステムの統一および、セキュリティシステムの刷新があげられます。製造拠点の拡大や販路の多様化、製品の安定供給を目指すにあたっては、関連企業とのシステム連携やコミュニケーション強化からスタートしてみてはいかがでしょうか。

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