2021年の年間売上高が155兆円を超えるGAFAM(Google・Apple・Facebook(現Meta)・Amazon・Microsoft)。なんと民間企業5社だけで、スペインやブラジルなどの国のGDPに肉薄する売上を叩き出しており、世界経済への影響力が非常に大きい企業群だといえます。
※IMFが発表した2021年の世界各国のGDPランキングでは、スペインは14位、メキシコは15位
そんな5社が現在、先行投資を進めているのがxRデバイスの開発とメタバース事業です。本記事では、2022年3月時点での、GAFAMのxRデバイス開発とメタバース事業に関する情報をご紹介します。
Googleが進める「Project Iris」と拡張現実OS
2022年1月20日に海外メディアThe Vergeが、Googleが「Project Iris」というコードネームでARヘッドセットの開発プロジェクトを開始した、との内部リークがあった旨の記事を配信しました。
情報提供者は、該当プロジェクトに精通している匿名のGoogle関係者2名とのこと。情報の信憑性はなんともいえませんが、2名の話によると、Project IrisによるARヘッドセットのプロトタイプは「スキーゴーグル状」になっており、同社独自のプロセッサーで動く、外部電源へのテザー接続を必要としないスタンドアロン型の仕様になっていると言います。また、最新のGoogle PixelスマホなどのカスタムGoogleプロセッサーを搭載しており、Android上で動作するプロダクトとして、2024年のリリースを目指して進んでいるとのことです。
ここで特記したいことが、2021年12月13日に海外情報サイト「9to5Google.com」が報じたニュース記事です。そこでは、Googleが革新的なARデバイスのための「Augmented Reality OS(拡張現実OS)」の開発着手と、それに付随する求人情報の発表を報じていました。
そのOS開発プロジェクトを率いているのは、なんと、直近までMeta(旧Facebook)でOculus VRのOS部門についてのGMを務めていたMark Lucovsky(マーク・ルコフスキー)氏だということが判明しています。
つまり、Project Irisで開発されるARデバイスに乗るOSは、プロトタイプである現時点では確かにAndroidかもしれませんが、リリースタイミングでは、このルコフスキー氏が率いるチームが開発する拡張現実OSになるかもしれないことが、おぼろげながらイメージできます。
Googleは、2010年代初頭に発表したARデバイス「Google Glass」で、決して成功とはいえないプロジェクトの終わりを経験しています。その時の教訓を活かして、どのような戦略と技術で新しいARデバイスが開発されるのでしょうか。非常に楽しみです。
2021年以降の動きが早くて大胆なMeta(旧Facebook)
2021年10月28日付で社名をFacebookから変更したMeta社では、来たるメタバース社会に向けて、さまざまな取り組みを加速させています。
まず、これまで同社が提供してきた「Oculus」というブランドを廃止し、全ての関連商品・サービスを「Meta ◯◯」に統一していくことを発表しました。その流れを受けて、今年1月には早速、Oculus Questが「Meta Quest」へ、Oculusアプリが「Meta Questアプリ」へと変更されました(公式ブログ記事はこちら)。
また、これとほぼ時を同じくして、Meta社では最終的に1万6000個のGPUを搭載するAIスパコン「AI Research SuperCluster(RSC)」の構築を進めていることも発表しました。ちなみに現在でもすでに、6,000台以上の「NVIDIA A100 GPU」を搭載して稼働しているとのことです。
こちらは最高スペックのスパコンということで、研究者によるAIモデルの構築を強力にサポートし、何百もの異なる言語で動作しながらテキスト・画像・ビデオ映像をシームレスに分析して、中長期的なARツールの開発の推進に役立てていく想定とのこと。2013年からFacebook AI Research Laboと呼ばれる機関を立ち上げてAI研究を進めてきた同社としては、このAI Research SuperClusterの構築は非常に重要なプロジェクトだと言えそうです。
一方で、同社が並行して進めていたxR/メタバース向け独自OS「XROS」の開発プロジェクトは、どうやら保留もしくは中止になったようです。正式な報道発表があったわけではないのですが、2022年1月に「プロジェクトが白紙になった」胸のニュースが飛び交い、さらに同年2月には、プロジェクトチームが解散したというニュースも報じられることになりました。前出したルコフスキー氏の退職(MetaからGoogleへの転職)も、少なからず影響していることが考えられそうです。
いずれにせよ、社名ごとメタバース仕様に変更したMeta社にとって、メタバースをはじめ、ARやVRなどのxR領域は本丸のビジネス領域となります。今後ますます動きが活発化してくるでしょうから、引き続き注視が必要となるでしょう。
ビジネスからゲームまで着々とメタバース範囲を広げるMicrosoft
Microsoftでは現在、複合現実ヘッドセット「HoloLens 2」を提供しており(2019年発表)、その次期モデルとなる「HoloLens 3」のリリースが待たれていましたが、2022年2月上旬に、「HoloLens 3開発計画が白紙になった」という報道が世界を駆け巡りました。
一方で、同社のMRチーム責任者であるAlex Kipman氏はこの報道内容を否定し、順調に進んでいる、とTwitterでコメントしています。
この報道の真偽は分かりませんが、同社では2021年3月2日に開催された開発者向けカンファレンスでMRプラットフォーム「Microsoft Mesh」の構想を発表しており、HoloLens 3が断念となると、この新プラットフォーム構想にも大きく影響を与えることになりそうです。
※Microsoft Meshについてはこちらもご覧ください
MRの世界を変える!?新プラットフォーム「Microsoft Mesh」とその可能性を解説
またMicrosoftは、2022年1月18日(現地時間)に、米ゲーム大手のActivision Blizzard社を買収する意向を発表しています。買収対象には、『Warcraft』や『Diablo』、『Overwatch』、『Call of Duty』、『Candy Crush』といった代表的なタイトルが多く含まれており、将来のメタバースの構成要素となることを想定しているとのことです。
同発表リリース文において、会長兼CEOのSatya Nadella(サティア ナデラ )氏は以下のようにコメントしており、ビジネスのMeshとはまた別軸での、エンタメ基盤のメタバース構築も進めようとしていることが伺えます。
「現在、ゲームはあらゆるプラットフォームを通じて、エンターテイメントの中で最もダイナミックでエキサイティングなカテゴリーであり、メタバースプラットフォームの発展においても、重要な役割を果たすことになるでしょう。マイクロソフトは、世界最上級のコンテンツ、コミュニティ、クラウドへの投資を強化し、プレイヤーとクリエイターを第一に考え、ゲームが安全かつインクルーシブで、誰もがアクセスできるものになる新時代を切り開こうとしています。」
「MRヘッドセット × realityOS」の噂が絶えないApple
Apple社でも、独自のMRヘッドセットを2022年に発売するとの噂が流れています。
この情報ソースは、Apple界隈で有名なアナリストのMing-Chi Kuo(郭明錤)氏。同氏は2021年11月の投資家への送付メモで、「Wi-Fi 6Eをサポートする初のMRヘッドセットが2022年にAppleからリリースされる」とコメントし、スナップチップとハイエンドディスプレイを備えた高品質のVR技術でゲームを処理できる複合現実体験を享受できるとコメントしています。
またこれに付随して、Apple社ではMRに関連する特許も多数取得しています。直近で注目される特許としては、電話会議中に特定の位置から音が聞こえるようにするARスマートグラスや、VR・ARデバイスの操作を指の細かい動きだけで実現する技術などが挙げられます。
さらに、もう一つ、同社によるMRプロジェクトへの期待値を高めるニュースが、「realityOS」です。これは、MRヘッドセットに搭載される「かもしれない」OS名と思われているものです。
同社ではGitHubにてOSSディストリビューションアカウント「Apple OSS Distributions」を開設しており、そこで2022年2月に「MachOFile.cpp」というリポジトリを作成しました。このリポジトリ自体はすぐに削除されたのですが、第三者によってブランチが作成されており、その中身が確認されることになりました。そこには、「realityOS」や、そのシミュレーターの存在を示す表記が見つかったのです。
もともとApple社では、xR向けの独自OSの開発が進められているだろうという噂はあったのですが、この情報拡散によって、その信憑性が「realityOS」という名前と共にグンと上がったと感じる方が多い状況です。
もちろん、同社から公式の発表があったものではありませんが、Wi-Fi 6Eをサポートする初のMRヘッドセットのOSは「realityOS」なのかもしれません。
ARアプリを活かした実店舗「Amazon Salon」
ここまで紹介した4社と比較して、Amazon社では現時点で、目立ったxR開発ニュースやメタバース事業ニュースはありません。もちろん、ユーザーの体験をリッチにするツールとして、ARやメタバースを活用することは十分に考えられます。
たとえば同社ではイギリス・ロンドンに、同社初となるヘアサロン店舗「Amazon Salon」を展開しており、2021年5月より一般客も利用できるよう営業をスタートさせています。
このamazon salonで特徴的なのが、ARアプリを活用したヘアスタイルやカラーの事前確認です。色々なヘアカラーやヘアスタイル をAR画面上で確認し、自分で納得してからオーダーできる仕組みになっているのです。
こちらはほんの一例で、今後もAmazonはGAFAMの中でも最強の物流ネットワークを有する企業として、バーチャル(メタバース)とリアルの世界をつなげる役割を担う存在になるのかもしれません。
莫大な先行投資の先にあるもの
今回は、GAFAMそれぞれのxRデバイス開発とメタバース事業に関する最新情報をご紹介しました。各社とも得意領域を活かしつつ、来たるメタバース社会に向けて莫大な先行投資を続けていることがお分かりになったと思います。
生活者とビジネスのプラットフォームとして、時代の覇権を握るのはどこになるのか。それとも、GAFAMではない第三の企業が世代交代をしていくのか。これからの展開が楽しみでなりません。