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DR(隠消現実感)とは?そこにあるモノを消す技術がもたらす未来

DR(隠消現実感)とは?そこにあるモノを消す技術がもたらす未来

新しい技術トレンドとして注目されているxR技術。代表的なものとしては仮想空間上で多様な体験ができるVRや、現実世界上にバーチャルな情報を重ね合わせるARが挙げられ、多くのxR技術が存在します。 上記でお伝えしたようなxR技術は「視覚的にプラスする技術」。しかし、世の中には「視覚的にマイナスする技術」も存在します。今回は、あるものを存在しないようにする「DR技術」について解説。

新しい技術トレンドとして注目されているxR技術。仮想空間上で多様な体験ができるVR(仮想現実感)や、現実世界上にバーチャルな情報を重ね合わせるAR(拡張現実感)、それらを組み合わせてより複雑な五感体験を提供するMR(Mixed Reality)など、さまざまなxR技術が存在します。

一方で、上記でお伝えしたような「視覚的にプラスする技術」だけではなく、世の中には「視覚的にマイナスする技術」も存在します。今回は、そこにあるものを存在しないようにする「DR技術」について解説します。

なお、VR・AR・MRについては、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご確認ください。

【入門編】VRとは? 何ができるか解説! ARとの違いも
ARとは? VR・MR・xRとの違いやビジネスでの活用を解説!!
MRとは?AR・VRとの違いや活用事例・デバイスを解説!

「DR」ってどんな技術?

DRとは「Diminished Reality」の略で、日本語では「隠消現実感」と訳されます。「減損現実」と表記されることもあるようですが、学術的には隠消現実感が正しい表記となります。

このDRとは先述のとおり、実際に存在する物体をディスプレイ上から隠蔽・消去・透過させ、存在しないかのようにする技術のことです。

どういうものかをイメージしていただくために、以下の参考動画をご覧ください。こちらはISMAR(International Symposium for Mixed and Augmented Reality)2018で発表された動画の一部となります。

もともとはドイツ・イルメナウ工科大学の研究チームが提唱した技術で、それ自体は新しい概念ではないものの、昨今のテクノロジーの進化によって技術活用の解像度が上がり、スマートフォンを通じて実際に使えるようになってきたといえます。

さまざまな実装方式があるDR

先ほど「リアルタイム」でのDR事例をご紹介しましたが、これは、リアルタイム動画像に対応したリアルタイムレンダリング方式を実装した方法になります。

一方でDRにはこの他にも、静止画像のなかにある対象物に背景画像を重畳する方法や、前もって撮影された動画像に背景画像の重畳を行うプリレンダリング方式もあります。

静止画像のなかにある対象物に背景画像を重畳する方法については、写真加工の領域ですでに一般的な技術になっています。

なお、実際に社会生活での活用を考えた場合のインパクトとしては、圧倒的にリアルタイムレンダリング方式によるDRが強いといえるでしょう。

もう一つのxR技術「SR」

SRとは?

DRの他に、実はもう一つ、「SR」と呼ばれるxR領域があります。これは「Substitutional Reality」の略で、日本語では「代替現実感」と訳されます。

こちらは主にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使うことが前提となる技術なのですが、「代替」ということで、ディスプレイに映る映像のすべて、もしくは一部が、現実のものではないようにする視覚技術を示します。

たとえば一般的なメガネを考えた場合、目の前に広がる光景は現実世界となります。一方で、SRを実装したHMDを装着すると、目の前に広がる光景は、地理的には同じ場所であったとしても、たとえば100年前の風景が広がることになります。つまり、現実世界の方位や地理情報を活かしつつも、視覚情報としては時間軸が古い情報を代替的に移していることになります。

このように、現実世界とは時間軸や空間軸そのものが異なる空間を混ぜる技術が、SRとなります。

以上からxR領域には、VR・ AR ・MRの他に、DRとSRもあることがわかります。

DRの活用先とは

DRの活用先

次に、DRの実際の活用方法についてみていきます。ここでは、アート作品・景観シミュレーション・テレワーク支援での活用という3つの領域をご紹介します。

アート作品

DRが活用される代表例として、アート作品が挙げられます。

たとえば、アートの祭典であるアルス・エレクトロニカにおいて、2020年の「アルス・エレクトロニカ賞2020(Prix Ars Electronica 2020)」Computer Animation部門の栄誉賞に輝いた、イギリスのアーティスト・Squarepusherのミュージックビデオ「Terminal Slam」では、DRがふんだんに活用されています。

映像では、主人公がMRグラスをかけて街中を歩くことで、いつもなら目に入りこんでくる広告や人物がAIによって削除され、音楽に合わせて風景が変形していく様子が描かれています。

ここで使われているのは、先ほどお伝えした、前もって撮影された動画像に背景画像の重畳を行うプリレンダリング方式によるDRになります。

土木建築の景観シミュレーション

DRは土木建築分野でも、活用が期待されています。具体的には、景観シミュレーションでの活用です。

何か新しく建物を建設する場合、既存の建物を解体して、さらに新しい建築物を建設することを想定して景観シミュレーションは行われるのですが、現在ではその手法としてVRやARが活用されています。

しかし、VRで景観シミュレーションを行うには仮想世界の構築に時間とコストがかかるという課題があります。一方でARの場合には、現実世界に実際に存在している解体・撤去予定の建築物と重畳させたいバーチャル上の建築物とが重なってしまい、適切な景観シミュレーションが行えないという課題があります。

そこで活用が期待されているのがDRです。既存の建築物の削除をDR技術で行ったうえで、バーチャル上の建築物をARグラスなどで重畳させることで、より正確な景観シミュレーションを行うことができるようになります。

テレワーク支援

さらに、テレワークでもDRの活用が期待されています。

コロナ禍で一気に機運が高まったテレワークですが、全従業員が自宅などのオフィス外で就業できるかというと、現時点ではそうもいきません。たとえば郵送物の送付や受け取り、紙で保管すべき機密性の高い書類の対応などは、引き続き誰からオフィスに行って対応する必要があります。

DRの活用が検討されているのは、主に後者です。ARグラスを使うことによって誰か一人がオフィスに行けば、複数人が遠隔から指示などをして対応できるのですが、その際に問題となるのが、機密情報を現場作業者に見せないようにするということです。

第25回日本バーチャルリアリティ学会大会で発表された論文では、情報隠消遠隔作業支援システムとして、機密情報の参照権限のない人であっても、HMDを装着することによって、DRで目隠しされた紙情報での押印ができるという概念が発表されました。もちろん、遠隔で支援するエキスパート、つまりは機密情報へのアクセスが許される人には、目隠し前のフルの紙情報が映った映像が見えています。

作業者が盗撮用のカメラなどを持っていないかの確認が必要など、別のセキュリティ課題はあるものの、テレワークを支援する一つのあり方として、このようなDRの応用構想もあります。

これからDRは本格的に活用されていく

今回は、実際に存在する物体をディスプレイ上から隠蔽・消去・透過させ、存在しないかのようにする「DR(隠消現実感)」技術について解説しました。途中でご紹介した「SR(代替現実感)」技術とあわせて、xRにはさまざまな領域があります。

特にリアルタイムレンダリング方式については、深層学習の高度化と密接に関わる技術のため、まだまだ一般生活に浸透するレベルのサービスにまでは落とし込まれていませんが、これから加速度的に進化していくことは間違いないでしょう。

近い将来には、記事中でご紹介した映像作品「Terminal Slam」のように、MRグラスをかけることで不要な情報を削除できる時代が実現するかもしれません。

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