IoTやAIといった技術の進歩に伴い、社内のデータを分析・活用し業務改善や経営へと活かすデータドリブンの考え方が主流になりつつあります。従来は勘や経験、気合や度胸といった俗に3K(KKD)と呼ばれる要素を重視する企業も少なくありませんでしたが、処理できるデータの量も質も爆発的な広がりを見せる中で、これらの要素はデータとは対極にある「古い考え」とみなされる傾向にあります。
しかしながら実際には、3Kはデータの分析活用に際しても重要視すべき考え方です。そこで本記事では、数値化や文章化がなされたデータの分析や活用と、個々人の中に眠るノウハウである3K・KKDの関係について解説します。
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3K(KKD)とは?
まずは3KおよびKKDの意味について確認しておきましょう。ここで言う3Kとは、勘・経験・気合の3つの頭文字を取った言葉で、気合を度胸に置き換えKKDと呼ばれる場合もあります。ビジネスにおいて、これらの要素をどのように活用しているのかの視点で、それぞれの意味するところを考察していきます。
「勘」は直感やひらめきを通じた意思決定ですが、そこにはしばしば長年の経験から磨き上げた経験や視点が含まれるものです。素早い判断が求められる際に活躍することも多いでしょう。
「経験」は、過去の成功や失敗から積み重ねた知識や技術です。特に製造業や建設業など、熟練技術が重要な業種では、経験が高品質な製品やサービスを生み出す基盤となります。
「気合」や「度胸」は、困難に立ち向かうための精神力や勇気と言い換えられるでしょう。これらはプレッシャーが大きい状況で、人やプロジェクトを前に進める推進力となります。失敗を恐れずに行動に移すことができれば、その過程で経験が磨かれ、そして勘としてその後の業務にも役立てられるようになります。
このように、3KやKKDは目に見えない形で蓄積され、ビジネスを支える重要な要素であることは間違いありません。
3KやKKDの問題点
しかしながら3KやKKDには問題点もあり、それが「古い考え」だと感じさせる原因にもなっています。ここからはその問題点の一部を紹介しましょう。
必ずしも正確ではない
3Kはそれを持つ個人によって練度の差が出やすく、それがパフォーマンスのバラつきやヒューマンエラーの原因になる場合があります。経験が不足している若手従業員では特に顕著で、3Kに依存すると十分な生産性は発揮できません。
また、過去の経験を直接適用できない複雑な問題や新しい問題に直面した際、勘や経験だけに依存するのは非常に危険です。判断の根拠が薄いまま、度胸や気合だけで行動に移してしまえば、より事態を悪化させることにもなりかねません。
教育や技術承継が難しい
3Kは多くの場合、言語化や文書化が難しい暗黙知として蓄積するものですが、これらを他の従業員に承継するには長い時間を要します。
たとえば、ベテラン従業員が若手従業員にある作業を教育する場面を考えてみましょう。作業手順や注意点がマニュアルなどの形で明文化(形式知化)されていれば、若手従業員もスムーズに作業を習得することができます。しかしマニュアルがなく3Kに支えられた作業風景を見せ、説明するだけでは、若手従業員がそれを自分の知識として落とし込むまでに相応の期間を費やすことになるでしょう。また、失敗を恐れず、積極的に作業に取り組めるかどうかは、個々人の気質にも左右されます。
このように、3Kは他社に伝えることが難しいものであり、業務の属人化や技術承継不足といった課題を招く原因となる場合があります。
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形式知化に時間と労力を要する
3Kを形式知としてデータや文章に変換できれば、よりスムーズに伝達できるのですが、このような「暗黙知の形式知化」にも時間や労力を要します。複数のベテラン従業員のもつ経験を、誰もが利用する形でデータやマニュアル化するといった取り組みを、本来の業務と並行して行うのは容易ではありません。
このような問題点により、個人に依存し組織としての活用が難しい3KやKKDよりも、組織全体のノウハウとして活用しやすいデータを重視する企業が増えつつあります。
3Kはデータ分析や活用に不要なのか?
3Kを排してデータ分析を推進しようとする企業も少なくないのですが、3Kはデータ分析において本当に不要なものなのでしょうか。実際には、データ分析のプロセスにおいても3Kが担う役割は依然として大きなものがあります。
データ分析の「対象」としては不向き
データ分析は多くの場合、定量化されたデータを扱います。この観点からすると、3Kは主観的かつ定性的な部分が大きいことから、直接分析対象とするのは難しいでしょう。分析のためにはなんらかの形で数値化する必要があります。
また、個人の勘や経験を言語化することで、ノウハウとして全社的活用することは可能です。しかし主観が入り込む勘や経験は、データ分析と比較して誤った結論を導き出してしまうリスクが大きい点が懸念として残ります。
データ分析における「仮説」としては価値あり
一方で、データを分析し活用するプロセスにおいては3Kが重要な役割を果たします。データ分析は、「データ全体の傾向から示唆を得る場合」と、「なんらかの仮説を検証するためにデータを扱う場合」の大きく2つに分けられますが、前者においては、得られた傾向が何を示すのかを考察する際に、後者においてはデータ分析の前提となる仮説をいかに素早く、正確に設定するかにおいて3Kが力を発揮します。
たとえば、不良品の発生を抑制するためにデータ分析を行う場合、製造工程全てのデータから原因を導き出すことは容易ではありません。このような場合に、「この設備に原因がありそう」といった勘や経験則があれば、見るべきデータを素早く定めることができ、分析をスムーズに進めることができます。
3Kをデータ分析に活かすポイント
3Kはデータ分析において直接扱うことは難しいものの、分析や活用の過程においては十分に価値がある要素です。このことを踏まえて、データの分析活用と3Kを組み合わせ、より素早くビジネスを動かしていくためのポイントを紹介します。
形式知化を通して活用できる状態にする
繰り返しになりますが、データ分析と3Kが相容れないものだと感じられる一番の要因は、3Kが暗黙知である点にあります。言い換えれば、3Kを形式知化し、データ分析と組み合わせれば、貴重な情報源にできるということです。
たとえば、ベテラン従業員のもつ3Kを形式知化する場合は、
- インタビューやビデオ撮影を通じ、作業手順や注意点を言語化する
- 言語化したノウハウをマニュアルなどの文章に落とし込む
といった流れが考えられます。
昨今ではスマートグラスをはじめとしたウェアラブルデバイスにより、作業者の視点をそのまま再現することも可能です。
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データ分析における分析対象の選定や仮説設定に用いる
データ分析を効率的に進めるには、単にデータ同士の関係性を見るだけでなく、何を見るべきか、何が言えそうかといったアイデアを持つことが重要となります。したがって、データ分析においていかに3Kを発揮すべきかは重要なポイントです。
たとえ3Kから導き出した視点や仮説が間違っていたとしても、試行錯誤を経て下した最終的な判断が誤っていなければ問題ありません。勘や経験から積極的にアイデアを出し、勇気を持って発言するといったように、「3Kを意識したデータ分析」を推進すべきでしょう。
データでの判断が難しい場合に用いる
時にはデータが不足していたり、データ分析で得られた結論に確信が持てない中で判断を求められる状況も考えられます。このような状況では、3Kが重要な判断材料になることもあるでしょう。勘や経験の後ろ盾があれば、たとえ限られたデータから下した判断であっても、勇気を持って行動に移すことができるはずです。
特に特に新しい領域に挑戦する場合や、前例のない問題に直面した際は、3Kがプロジェクトを推進し、チームを動機づける重要な要素となります。とはいえ3Kに依存するリスクは残りますので、複数人でアイデアを出し合い、限られたデータを少しでも深く分析する視点を忘れてはなりません。
データ分析やDXの推進を支える3K
IoTやAIといった先端技術も決して万能ではなく、十分なデータが揃っていない環境では人間の創造力が重要となる場合もあります。この創造性の根底にあるのが3Kであり、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するうえでも、3Kは決して欠かすことができない要素となります。
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逆に考えれば、各々が磨き上げた3Kを日々進化する社会で活かし続けるためには、データの分析活用ができる基盤を整備しなければならないとも言えます。データの利活用に向けた基盤の構築は、データクラウドをはじめとした技術への知見や、IoT/AIの活用、最新技術に適応した設備改修を伴う難易度の高いものですが、3Kを重要視してきた企業こそ、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。